2011-05-18

『刑務所図書館の人びと-ハーバードを出て司書になった男の日記-』

著者: アヴィ・スタインバーグ=著 金原瑞人/野沢佳織=訳
【アヴィ・スタインバーグ】
1979年、エルサレムで生まれ、クリーブランドとボストンで育つ。これまでに、「ボストン・グローブ」「ニューヨークレビューオブブックス」などに執筆。本書がデビュー作。
http://avisteinberg.com/
定価: 2,625円(税込)
刊行日: 2011年4月
ISBN: 978-4-7601-3980-4
判型: 四六判・上製
総ページ数: 536頁
内容: 厳格なユダヤ教徒の家庭に育ち、ハーヴァード大を卒業した著者。大学を出てふと立ち止まった。あれ? 自分って何がやりたいんだっけ?
そんなときに舞い込んできた一枚の求人票。「ボストン、刑務所図書室司書、フルタイム」。ひとたび、塀の中へ足を踏み入れてみると、そこは人生の交差点だった……。刑務所の図書室に集う人々との出会いを通して、彼自身も変わっていく。アメリカの今を描く、注目のノンフィクション。


Running the books : the adventures of an accidental prison librarian
Author: Avi Steinberg
Publisher: New York, NY : Nan A. Talese, ©2010.
Genre/Form: Biography
Named Person: Avi Steinberg
Material Type: Biography
Document Type: Book
ISBN: 9780385529099 0385529090
Description: 399 p. ; 22 cm.
Contents: Part 1: Undelivered --
1: Up & up and low low --
2: Books are not mailboxes --
Part 2: Delivered --
3: Dandelion polenta --
4: Delivered --
Prologue --
Acknowledgments.
Responsibility: Avi Steinberg.
Abstract:
From the Publisher: Avi Steinberg is stumped. After defecting from
yeshiva to Harvard, he has only a senior thesis essay on Bugs Bunny to
show for his effort. While his friends and classmates advance in the
world, he remains stuck at a crossroads, unable to meet the lofty
expectations of his Orthodox Jewish upbringing. And his romantic
existence as a freelance obituary writer just isn't cutting it.
Seeking direction-and dental insurance-Steinberg takes a job as a
librarian in a tough Boston prison. The prison library counter, his
new post, attracts con men, minor prophets, ghosts, and an assortment
of quirky regulars searching for the perfect book and a connection to
the outside world. There's an anxious pimp who solicits Steinberg's
help in writing a memoir. A passionate gangster who dreams of hosting
a cooking show titled Thug Sizzle. A disgruntled officer who
instigates a major feud over a Post-it note. A doomed ex-stripper who
asks Steinberg to orchestrate a reunion with her estranged son,
himself an inmate. Over time, Steinberg is drawn into the accidental
community of outcasts that has formed among his bookshelves-a drama he
recounts with heartbreak and humor. But when the struggles of the
prison library-between life and death, love and loyalty-become
personal, Steinberg is forced to take sides. Running the Books is a
trenchant exploration of prison culture and an entertaining tale of
one young man's earnest attempt to find his place in the world while
trying not to get fired in the process.
-------------------------

本書のエピグラフがカフカの日記からの引用だった(下掲)。著者はカフカと同じく「ユダヤの教えによると1人前ではない」独身男性。刑務所内図書室で「組合・保険加入あり」の職を得るまでは、新聞に死亡記事を書いて禄を食んでいた。トーラーやラビなど「正統派」ユダヤ教に染まれない、現代を生きる若者の日常生活が活写されている。

19 (Februar 1922) Hoffnungen?

20 (Februar 1922) Unmerkliches Leben. Merkliches Mißlingen.

25 (Februar 1922) Ein Brief

Franz Kafka (3. Juli 1883 - 3. Juni 1924) Briefe und Tagebücher

http://homepage.univie.ac.at/werner.haas/

2011-05-06

「都市とフィクション——ソール・ベローのシカゴ——」

日本ユダヤ系作家研究会第17回講演会報告

2011年3月26日(土)14時00分より
ノートルダム清心女子大学 中央棟10F 第二会議室にて


鈴木元子氏講演会

「都市とフィクション——ソール・ベローのシカゴ——」


 第17回講演会には、静岡文化芸術大学教授の鈴木元子先生をお迎えした。ソール・ベローを研究される傍ら、昨年夏に実際にシカゴで取材をし、最新
の情報を入手してきたとされる講演内容に、聴講者は興味をもって熱心に耳を傾けた。

 第一章:シカゴの誕生から形成・発展
 イリノイ州の州都で、全米3番目の人口を擁するがThe Second City(金融関係では二位)、Windy
Cityなどと呼ばれる。歴史は200年に満たない。1833年に200人からタウン・オブ・シカゴはスタートし、1871年にはThe Great
Fireを経験する。乾燥により焼き尽くされた町は、摩天楼のそびえる近代的な街へと変化する。1892年の万博には、日本も初出展し、そのときの日本庭
園は現存している。シカゴ大学はハイドパークに設立され、学生や教員の20%から25%がユダヤ系であり、多額の寄付を納める。

 第二章:ユダヤ人にとってのシカゴ(Jewish Chicago)
 ドイツからの行商人はダウンタウンに店を設け、シナゴーグを中心にした街を形成した。南北戦争でも北軍として出兵し、1860年までに4人ユダヤ
人が公職に就く。1930年までには、東欧出身者が80%を占めるようになり、その人たちとドイツ出身者の建てた建物など二分化する傾向にあった
が、寄付や援助によりそれも解消していく。自らの力でコミュニティを形成するユダヤの伝統の例である。

 第三章:ベローの自伝との絡みでのシカゴ
 Saul Bellowはカナダで生まれるが、9歳でシカゴに移住。1962年にはハイドパーク近くに居を定める。シカゴ大学に30年間勤務。1993年78歳で都
会のシカゴを離れ、バーモント州に移り、ボストン大学で週2回の講義を行う。2005年没。

 第四章:ソール・ベローの小説の舞台としてのシカゴ
 作品中にどう描出され、なぜシカゴでなければならないのかについて、主に6点挙げられる。
(1)幼年時代の思い出が詰まった都市シカゴ(特に貧しいユダヤ人地区):『フンボルトの贈り物』(1975)などに見られる郷愁。食肉加工業 (Meat
Packing)を主要産業とするシカゴ。ベローは自身を知るには、伝記作家の調べた些末な事柄よりも、シカゴの公園を眺めた方がよいとしている。
(2)ビジネスの都市シカゴ(Business Chicago):『オーギー・マーチの冒険』(1953)などに見られる商業の大都市としてのシカゴが描かれる。
(3)犯罪と腐敗の都市シカゴ:『フンボルトの贈り物』や『学生部長の12月』(1982)に描かれる。現在も朝刊などに事件多発の様子が見られ る。
(4)文化のない(Cultureless)都市シカゴを救いたい:現在は移民の都市として
エスニック文化の繁栄も見られるが、ベローの芸術への 志向が『フンボルトの贈り物』、書簡などに見られる。
(5)元彼女を取り戻すために戻ってくる都市シカゴ:『ザ・アクチュアル』では恋人との仲を取り持つシカゴのブリザードの記述がある。書簡集には
共同墓地を求婚の場とする記述があり、墓には�死と再生の場�死の接近により幼少期の輝きが増す�迫害の民の身近な避難所、安全の地などの象徴性
が見出される。
(6)書くために戻ってくる都市シカゴ:書簡集より
                                                   (要約 江原雅江)