2011-08-30

「われわれの知っているこの世界は、数限りもないほどの希望に満ちている。ただし、そのどれひとつとして、われわれのためのものではない」

川村二郎『アレゴリーの織物』を読んでいると、アレントが引いた、ゲーテとベンヤミンの言葉が、そのまま引かれている。さらに次のようなカフカの言葉も。「われわれの知っているこの世界は、数限りもないほどの希望に満ちている。ただし、そのどれひとつとして、われわれのためのものではない」。http://twitter.com/#!/Yuzu47/statuses/81287350960914433

「カフカの主人公の受動性」@『小説の誕生』(保坂和志)

『小説の誕生』 保坂和志 著
税込価格 : \1100 (本体 : \1048)
発行形態 : 書籍
判型 : 四六判変型
頁数 : 478ページ
ISBN : 978-4-10-398206-7
C-CODE : 0095
発売日 : 2006/09/29


■内容紹介
世界を絶望せずに生きるための小説を求めて——。
小説的思考とは何か? 小説が生まれる瞬間とはどういうものか? 小説的に世界を考えるとどうなるの
か?——行き着く先もわからないまま考えつづけるうち、「小説論」はどんどん「小説」へと変容していった。「小説論」とは思考の本質において、評論ではな
く「小説」なのだ! 『小説の自由』につづく、待望の第二弾。

■目次
まえがき——F式前進——
1 第二期のために書きとめて壁にピンで止めたメモのようなもの
別のことを提示する
芸術とアート
〈新しい−古い〉は同じ系
ゴダールの言葉
2 小説と書き手の関係
小説に潜む"切断"
小説の力学
推敲とは?
リアリティの生成
標準的センテンスからのズレ
3 現代性、同時代性とはどういうことか
現象としての現代性、同時代性
言葉は底が抜けている
ベケットからハイデガーへのアンサー
カフカの主人公の受動性
「新しい」文学はもうありえない
4 外にある世界と自分の内にあること、など
小説の基盤の脆弱さ
読者とはどんな人たちか
ただ読むこと
"筋"ではなく"場"だけがある
『ロクス・ソルス』
「人生にあって忘れ難い瞬間」
中身と形式の強い連関
5 時間と肉体の接続
パソコンが壊れた
阿部和重の直列的な文章
文学じみた"現実"
アキちゃん、または個人や自我の乗り越え
時間は驚くほど人を変える
いまだ言語化されていない時間
現代の思考のモードの打破
6 私の延長は私のようなかたちをしていない
「肉体は滅びる」か?
「脳」が広大無辺であるとはどういうことか
表現に刻みつけられる時間
肉体が理解する空間
「同じ現象を歩む」
7 小説を離れてリアルなこと
書店という空間
人間と空間との関わり
芸術とはまず量である
語りえないものと時間
小説から離れてリアルなこと
小島信夫のすごい小説
思考の胎動
名簿の中の死者たち
8 現実とリアリティ
作者と現実が触れ合う
自分を取り巻く方角の感覚
ホフマンスタールと「現実界」
読者の中で起こる事実
9 私の延長
「死」をめぐる問い
ドストエフスキーの歪み
世界を肯定する小説
武士とヤクザの死生観
特攻服に縫い込まれた詩
『春と修羅』
自分に関係のある近所の環境
10 「われわれは生成しつつあるものを表現するための言語を持っていない」
『ニーチェと悪循環』
「永劫回帰」とは?
考えること、書くこと
「言葉なんかいらない」
『寓話』個人出版
作家は異質さを持ち込む
諸衝動の出会いの場所
11 人間の姿をした思考
小説にはどうして人間が出てくるのか
ギリシア神話の神々の姿
神はどのように生まれてきたか
言葉と別のところで存在するもの
太古の人間にとって世界とは
森で生まれた思考
事実に負けない思考
感動すること、時間の中に生きること
12 人間の意図をこえたもの
世界の何か
肉体との直結
論理的なものの非論理性
どこまでも伸びてゆく線
意図の過剰推測
なけなしの選択肢
13 力と光の波のように
意識とは何か
不滅であるもの
世界には外はない
思考の完成を許さない亀裂
言語の体系が揺さぶられる
視覚イメージ不可能なもの
制度化されざる力
引用文献リスト

あとがき

著作一覧

『一人称小説とは何か - 異界の「私」の物語』

著者 廣野 由美子 著
シリーズ 哲学・思想 > MINERVA 歴史・文化ライブラリー 19
出版年月日 2011/08/10
ISBN 9784623060795
判型・ページ数 4-6・288ページ
定価 本体2,500円+税

■内容紹介
「私」による語りの可能性
一人称形式によって描かれた虚構の世界。
そのなかで照らし出されるものは何か
「私」とは誰か?一人称形式の小説を読みとくさいの鍵となる「異化」作用について、イギリス小説を中心に考察する。語り手の設定によって創造された
虚構の世界では、人間の在り方にどのような新しい光が当てられ,いかなる実相が照らし出されるのだろうか。本書は、死者や怪物、動物をはじめ、さまざまな
「私」の物語世界へと誘う。

■目次

まえがき

序 小説と異化作用

第一章 一人称小説の伝統と機能

第二章 不思議の国の「私」——スウィフト『ガリヴァー旅行記』

第三章 「私」は死者——フィールディング『この世からあの世への旅』

第四章 「私」は怪物——メアリ・シェリー『フラケンシュタイン』

第五章 「私」は超能力者——ジョージ・エリオット「引き上げられたヴェール」

第六章 「私」は動物——アンナ・シューエル『ブラック・ビューティ』

結び 語り手の設定——一人称小説の可能性
各章コラム/参考文献/あとがき

■著者

研究分野 英米文芸構造論(イギリス小説)

キーワード 19世紀イギリス小説、ヴィクトリア朝、物語論、小説理論、ジェイン・オーステイン、ブロンテ、ディケンズ、サッカレー、トロロープ、ギャスケル、ジョージ・エリオット、ハーディ

研究テーマ  英米文芸構造論の立場から、近現代イギリスにおいて、人間がいかに文化・社会的環境を認識し、それを小説という高度な物語形式を用いて表象してきたかを探究することによって、文芸表象分析の概念的・方法論的基盤確立を目指す。

 研究対象は、ジェイン・オースティン、ブロンテ姉妹、ディケンズ、サッカレー、トロロープ、エリザベス・ギャスケル、ジョージ・エリオット、トマス・ハーディ等の19世紀イギリス小説。これらの文芸作品を主たる対象として、物語の内容がいかに語られているかという<形式的物語分析>、ならびに広義の物語論、すなわちプロット構成・時間構造・人物造形・イマジェリー・テーマ論等を含む<物語の内容分析>を、諸々の文学理論を援用しながら多面的に分析する。これによって、小説の表象構造や小説言語のメカニズムの解明に取り組んでいる。

 「語り」とは、人間存在に根差す根源的行為のひとつである。人間にとって「物語とは何か」という問題を探究することが、私の研究テーマである。

代表的著書,論文等 『19世紀イギリス小説の技法』(福原賞受賞/英宝社, 1996)

『「嵐が丘」の謎を解く』(創元社, 2001)

『批評理論入門−「フランケンシュタイン」解剖講義』(中公新書, 2005)

『視線は人を殺すか−小説論11講(MINERVA歴史・文化ライブラリー11)』(ミネルヴァ書房, 2008)

『ミステリーの人間学−英国古典探偵小説を読む』(岩波新書, 2009)

所属学会

その他の研究活動等 日本英文学会(2005-2007 編集委員、2007 同委員長)、日本英文学会関西支部(2008-2010
大会準備委員、2009 同委員長、2011-理事)、日本ブロンテ協会(2002-2010
評議員、2011-理事、2011-編集委員)、日本ジョージ・エリオット協会(理事・編集委員)、日本ギャスケル協会(幹事、論文審査委員)、ディケンズ・フェロウシップ日本支部(2002-2008
理事)、日本オースティン協会、日本ハーディ協会、日本ヴィクトリア朝研究学会 各会員

担当授業

学部

英米文芸表象論講義、英米文芸表象論演習I,II、英米文芸表象論講読I,II

大学院修士課程

英米文芸構造論1、文芸表象論演習1

大学院博士課程

文芸表象論特別演習

全学共通科目

英語I, 英語II

経歴等 1958年、大阪府生まれ。1982年、京都大学文学部文学科卒業(独文学専攻)。英文学に転向後、神戸大学大学院・文学研究科修士課程修了
(1988)、同・文化学研究科博士課程単位取得退学(1991)。学術博士(1994)。大阪市立大学他非常勤講師(1991〜1994)、山口大学教育学部助教授(1994〜2000)を経て、京都大学総合人間学部助教授(2000〜2003)。2003年、改組により京都大学大学院人間・環境学研究科助教授。2008年より教授。

『カフカ中期作品論集』

カフカ中期作品論集
編者:古川昌文/西嶋義憲
執筆者 : 有村隆広/安藤秀國/上江憲治/
佐々木博康/下薗りさ/立花健吾/西嶋義憲/
野口広明/古川昌文/牧秀明/村上浩明

四六判・上製・410頁
ISBN978-4-8102-0228-1
3,150円 (本体3,000円)
2011年7月刊

■内容紹介
カフカ「中期」の代表作を
11名の執筆者が徹底分析!

 本書では「中期」(1914年夏から1917年春までの3年間)に書かれた作品のうち、短編『流刑地にて』と短編集『田舎医者』を取り上げ、第一部では『流刑地にて』を第二部では『田舎医者』に収められた14編の作品をそれぞれ独立させて論じた。生前に発表された代表的な短編と短編集が11名の執筆者によりさまざまな角度から分析される。
 巻末に「年譜」と「索引(人名・作品・事項)」を付した。


■目次

短編『流刑地にて』
『流刑地にて』—戦う二人
『流刑地にて』—「書くこと」の断罪
『流刑地にて』—「お見通し」発言の分析

短編集『田舎医者』
『新しい弁護士』—自由への憧れと諦念
『田舎医者』—夢の技法
『天井桟敷にて』—真実と現実
『天井桟敷にて』—構造分析
『一枚の古文書』—騙し絵の構図

ほか

2011-08-29

『令嬢たちのロシア革命』

レイジョウタチノロシアカクメイ
令嬢たちのロシア革命
斎藤 治子【著】
岩波書店 (2011/04/27 出版)
314,7p / 19cm / B6判
ISBN: 9784000256582
価格: ¥3,990 (税込)


■目次

まえがき
プロローグ 帝政に抗う女性たち
一 貴族女性の抵抗のかたち
二 令嬢たちの自立意識とフェミニズム
三 チェルヌィシェフスキー『何をなすべきか』現象
四 ナロードニキと女性テロリスト
五 マルクス主義の革命運動と女性解放
I
第1章 アリアドゥナ・ティルコーワ——ロシアと女性の解放を求めて
一 誕生,そして兄の大事件
二 ギムナジヤの親友たち
三 結婚,離婚,子持ちのジャーナリスト
四 政治改革運動への参加
五 二人の男性との出会いと日露戦争
六 一九〇五年革命の中で再婚
七 カデットのフェミニスト
第2章 アレクサンドラ・コロンターイ——恋多き社会主義フェミニスト
一 型破りな軍人貴族の家庭
二 結婚,そして別れ
三 プレハーノフとの出会い
四 フェミニズムから学ぶ
五 国際社会主義運動へ
六 反戦平和のための戦いとボリシェヴィキの恋人
七 レーニンとともに革命へ
第3章 エレーナ・スターソワ——ボリシェヴィキ優等生の切ない恋
一 芸術の香り高い家族
二 青春の旅立ちは革命運動
三 ロシア社会民主労働党ボリシェヴィキとして
四 党活動の中で芽生えた恋
五 奇妙な結婚,憧れのレーニンとの出会い
第4章 イネッサ・アルマンド——レーニンへの愛と自立のはざまで
一 フランス生まれの美少女
二 愛する義弟とともに革命へ
三 シベリア流刑
四 ヴァロージャの死,そしてパリへ
五 ふしぎな三角関係
六 『ラボートニッツァ』の発行
七 自立へのもがき
第5章 マリーヤ・スピリドーノワ——エスエルのカリスマ・テロリスト
一 女子高生で革命の道に
二 ルジェノフスキー暗殺事件——スピリドーノワ,世界に名をはせる
三 結婚できない婚約者たち
四 アカトゥイ収容所の仲間たち
五 マリツェフ収容所のコンミューン
六 エスエルの悩み
II
第6章 一九一九年二月革命
一 第一次世界大戦がロシア女性に与えた被害と「チャンス」
二 国際女性デーから二月革命へ——帝政の崩壊,ソヴェトと臨時政府の成立
三 令嬢たちの二月革命
四 レーニンの帰国と「四月テーゼ」
五 臨時政府の改造と総攻撃の失敗
六 臨時政府,夏の明暗——七月事件と女性参政権
第7章 十月革命——ソヴェト政権の「講和」と令嬢たちの「平和」
一 コルニーロフ最高司令官の反乱
二 十月武装蜂起へ
三 ソヴェト政権の成立
四 憲法制定会議の召集と解散
五 ブレスト・リトフスク講和条約——レーニン最大の危機と令嬢たち
エピローグ 革命のもたらしたもの
一 アリアドゥナ・ティルコーワ——ソヴェト政府と戦い続けた生涯
二 アレクサンドラ・コロンターイ——世界初の女性大使への道
三 エレーナ・スターソワ——スターリン時代を生き延びた奇蹟
四 イネッサ・アルマンド——若き死,愛に充たされて
五 マリーヤ・スピリドーノワ——農民のために捧げた命

地図
あとがき
文献

■著者

斎藤治子(さいとう はるこ)
1936年,東京生まれ.
東京女子大学文学部卒,東京大学大学院社会学研究科国際関係論専門課程博士課程修了.東京女子大学,上智大学等の非常勤講師を経て,帝京大学文学部助教授,教授.2003年退職.政治学博士.ロシア現代史,国際関係史.
著書に,『独ソ不可侵条約』新樹社,1995年.『ユーラシア・ブックレット6.いま,レーニンへの旅』東洋書店,2000年.『ユーラシア・ブックレット79.第二次世界大戦を見直す』東洋書店,2005年.(共著)『日露戦争研究の新視点』成文社,2005年.
『世界史史料』編集委員.

■著者からのメッセージ

あるとき「レーニンとイネッサ・アルマンドはほんとに「関係」があったんですか?」と質問を受けた.私が知るわけがないではないか.「本人たちに聞くしかないですね」.やんわりと応えた.
 またあるとき「カランターイの恋愛に興味がありますか?」とロシア人に聞かれた.カランターイ?誰のこと?それが,世界初の女性大使として知られるコロンタイだと気づくまでに,やや間があった.
 私の専門は一応,外交史だから,よそ様の恋愛に首をつっこんでいる暇はないのである.だが,ソ連崩壊後のロシア革命非難のごうごうたる嵐が静まり,多面的な見直しが可能になってきた頃,彼女らがこの時代をどのように生きたのかが気になりだした.そして,裕福な家庭と子どもを「捨て」,革命運動に飛び込んだイネッサやコロンターイなどを通じて,ロシア革命を透視してみようと思った.この革命は女性労働者の「パンをよこせ」のデモに始まったものでもあるのだ.ボリシェヴィキだけではなくソヴェト政府に反対した女性たちにも登場してもらおう.彼女たちは生身の女性だから恋愛もするし,運動との板ばさみもあっただろう.現代の女性たちと共通する問題を抱えていたに違いない.
 個人的な興味から5人の貴族令嬢を選び,21世紀の世界に招待した.

■書評 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

■次代の女性の社会的役割牽引■

 本書を読み進むうちにある感情が熟成されてくる。ロシア革命に至る道筋に顔を出す5人の女性が生き生きと描写され、まるで評伝のような手法が用いられている。著者自身、「歴史学の枠すれすれ、あるいは枠を越えてしまったかもしれない」と書いているが、一般読者にはこの手法こそむしろ著者の意図が正確に伝わるように思える。

 5人の女性(生年は1869年から84年まで)は、ロシア社会を含めヨーロッパ社会を代表する知性と行動力をもっているのだが、貴族やオペラ歌手、文官などの家庭で独自の基礎教育を受けた共通点をもっている。その知的環境を知らされると、彼女たちはロシア革命によって自らの信念(女性の自立や社会主義による男女差別の是正など)が果たされたわけではないが、少なくとも20世紀の女性の社会的役割の牽引(けんいん)者になったことは疑い得ない。

 5人の1人、イネッサ・アルマンドはレーニンを師と仰ぎつつ、しだいに愛情を寄せるようになるが、家庭を捨て、革命家として自立を目指す中に垣間見える実像を著者は好意的に描く。革命が成ったあとの1920年秋に46歳で病没するが、死直前の日記を引用しつつ、「レーニンと革命と(前夫との)子どもたち、この3つがイネッサの中では1つに溶け合っており、彼女の生きる力であった」と書く。レーニンの悲しみの記述も十分にうなずける。

 ロシア革命はドイツから戻ったレーニンが、いわゆる「4月テーゼ」を示し、これが契機となり十月革命が実る。民衆にこのテーゼを知らしめる役を果たしたコロンターイとスターソワという2人の女性の役割は大きいと著者は指摘する。その人生にも、革命理論と実践の研ぎ澄まされた融合がある。最終章で5人の女性が、革命後どのような人生を辿(たど)ったかが描かれる。各様の姿にロシア革命の悲劇も宿っていて考え込む。

■日本ユーラシア協会東京都連合会HPより

『独ソ不可侵条約』(新樹社)『第二次世界大戦を見直す』(ユーラシアブックレット東洋書店)など現代史における国家間の秘密交渉と背後関係に関する精緻な分析で定評ある著者が、このたび世に問うたのがこの『令嬢たちのロシア革命』である。
 "天の半分は女性が支えている"との格言を待つまでもなく、"歴史の原動力に女性あり"ということを再認識させてくれたのが本著だ。帝政末期からロシア革命の黎明期、揺籃期の出来事が女性の手によって創出されたことが丁寧に綴られている。恋愛、結婚、離別など歴史を紡ぐがごとき男女が織りなす綾と女性同士のライバル心などが伏線となって、革命が創出されていく過程叙述が深い味わいを呼ぶ仕上げとなっている。日本語の歯切れ良く、とにかく読みやすい。プレハーノフのロマンスも捨てがたいエピソードだ。

いずれにしても、ロシア革命研究に新境地を拓いてくれたことに敬意を表したい。
渾身の力作、諸兄諸姉には眼光紙背に徹するご精読を乞う。                  (K)

岩波書店 2011年4月27日刊(価3990円)
(斎藤治子氏は東京ロシア語学院理事長、ユーラシア研究所前所長、帝京大学元教授)

〈岩波書店ホームページから〉
二月革命の発端は国際婦人デーに女性労働者が中心となったデモであり,革命の主導者の中には高い教育を受けたロシア貴族の令嬢の姿が見られた.後に世界初の女性大使となったコロンターイ,美貌でも知られるアルマンドら,革命を牽引した五人の女性たちの活躍と苦悩を,ソ連崩壊後公開の続く史料に基づいて,活き活きと描く。

2011-08-25

『チェコの伝説と歴史』

チェコの伝説と歴史
A.イラーセク著・浦井康男訳註
判型: A5 上製
頁数: 580
ISBN: 978-4-8329-6753-3
Cコード: C3022
発行日:2011-03-31
定価: 9,450円 (本体価格9,000円+税)

●本書の特徴
建国伝説から18世紀初頭の民衆の反乱まで,チェコの歴史を単なる概説ではなく,フィクションを加えた「歴史を背景とした作り話」として生き生きと描写.歴史的背景の説明と詳細な注により,日本人読者にもわかりやすいよう配慮した.チェコ文学の古典の初めての邦訳!


●目次
訳者まえがき

第一部 古代チェコの物語
解  説
序  文
1 章 チ ェ フ
2 章 クロクとその娘たち
3 章 ビヴォイ
4 章 リブシェ
5 章 プシェミスル
6 章 リブシェの予言
7 章 娘たちの戦い
8 章 クシェソミスルとホリミール
9 章 ルチャン人との戦い
10 章 ドリンクとネクラン


第二部 キリスト教時代の物語
解  説
序  文
1 章 スヴァトプルク王
2 章 イェチミーネク王
3 章 聖ヴァーツラフの旗
4 章 ブルンツヴィーク
5 章 オパトヴィツェの秘宝
6 章 古きプラハの物語
 (1) 古きプラハの物語
 (2) 奇術師ジト
 (3) 国王ヴァーツラフ四世
 (4) 旧市街市役所の時計台
 (5) ダリボル・ス・コゾイェト
 (6) ユダヤ人の町
 (7) 嘆きの場所
 (8) ファウストの家
7 章 ジシュカ
8 章 クトナー・ホラの坑夫たち
9 章 白い貴婦人
10 章 ばらの野原
11 章 神の審判
12 章 ヤノシーク


第三部 古の予言より
序  文
1 章 シビラの予言
2 章 盲目の若者の予言
3 章 ハヴラス・パヴラタの予言
4 章 様々な予言
5 章 ブラニーク騎士団
付 録 ヤン・ジシュカとフス派戦争(浦井康男)
註 釈 部
使用文献
訳者あとがき
地  図
年  表
索  引


●著者紹介

■A.イラーセク(A.イラーセク)
1851 年にチェコ北部のフロノフに生まれ,プラハ・カレル大学で歴史を学ぶ.卒業後リトミシュルとプラハのギムナジウムで教師を務めながら多くの歴史小説を執筆し,チェコ民族の栄光と受難の歴史を描いて,この分野の第一人者となる.1919年に未刊で終わった『フス派王』の後創作を止め,1930年にプラハで没.

■浦井 康男(ウライ ヤスオ)
1947 年に静岡県熱海市に生まれる.京都大学理学部に入学後,文学部言語学科に転部.1976年に同文学研究科博士課程言語学専攻を単位取得退学.1977年に福井大学教育学部,1997年に北海道大学大学院文学研究科に移籍.2011年3月に北海道大学を停年退職後,北海道大学名誉教授.
【研究】
ロシア語では,近代ロシア文章語の研究でコンコーダンスの編纂や論文等多数.
チェコ語では,"Czech Literature in Japan,"Japanese Slavib and East European
Studies, vol. 1, 1980, pp. 71-82,
関西チェコ/スロヴァキア協会内の資料として,A.ムハ(ミュシャ)の「スラヴ叙事詩」の解説(CD版),K.J.エルベンの『花束』の翻訳,K.H.
マーハ『マーイ』のチェコ語中級読本(共に私家本,2010年)などがある

2011-08-24

悪夢を訳す——長谷川四郎訳フランツ・カフカ

文豪の翻訳力
近現代日本の作家翻訳 谷崎潤一郎から村上春樹まで
井上健
武田ランダムハウスジャパン (2011/08 出版)

431p / 20cm / B6判
ISBN: 9784270006658
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作家たちは何を求めて原文と向き合い、何を創りだしたか?
村上春樹の精力的な訳業は、二葉亭四迷、森鴎外の「作家翻訳」の伝統を引くものか?

日本語文体と日本文学に多大な影響を与えた「作家翻訳」。
その変遷と意義を比較文学の第一人者が多様な視点と綿密な論考でたどる。
二葉亭四迷、森鴎外の例を待つまでもなく、作家による外国文学の翻訳は日本近代文学の成立に決定的な影響を及ぼした。
大正期にも谷崎潤一郎、佐藤春夫、芥川龍之介などが積極的に翻訳を行い、自らの文体を磨き、創作の幅を広げてきた。
その頂点とも言うべき存在が村上春樹であり、アメリカ文学の受容と翻訳の取り組みがなければ、現在の村上文学は存在しなかったと言っても過言ではない。
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作家たちは果たして何を求めて外国文学の原文と向き合い、何をそこから得たのか?
日本語と日本文学に、翻訳はどんな影響を及ぼしてきたのか?
比較文学の第一人者が、多様な視点から「作家の翻訳」を考察する、畢生の秀作評論。

現代日本語を語る上で欠かせない外国文学の翻訳。作家は何を求めて原文と向き合い、何を得たのか? 比較文学の第一人者の秀作評論

二葉亭四迷、森鴎外の例を待つまでもなく、作家による外国文学の翻訳は日本近代文学の成立に決定的な影響を及ぼした。大正期にも谷崎潤一郎、佐藤春夫、芥川龍之介などが積極的に翻訳を行い、自らの文体を磨き、創作の幅を広げてきた。その頂点とも言うべき存在が村上春樹であり、アメリカ文学の受容と翻訳の取り組みがなければ、現在の村上文学は存在しなかったと言っても過言ではない。
作家たちは果たして何を求めて外国文学の原文と向き合い、何をそこから得たのか? 日本語と日本文学に、翻訳はどんな影響を及ぼしてきたのか?
比較文学の第一人者が、多様な視点から「作家の翻訳」を考察する、畢生の秀作評論。翻訳者、翻訳志望者はもとより、日本語と日本文学に関心のある読者、必読の書。
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はじめに
序論(一)作家翻訳をいかに問題とすべきか
 1 作家の翻訳という場
 2 翻訳文学を先導するものとしての作家翻訳——再読『洛中書問』
 3 作家翻訳と創造性の問題
 4 翻訳学の展開と翻訳文学研究の課題
序論(二)戦後翻訳史の転回点と作家=翻訳家村上春樹の出発——1972−1982
 1 戦後翻訳文学史における六〇年代と七〇年代
 2 村上春樹のフィッツジェラルド体験
第二章 大正作家の翻訳
 1 外国語と母語との間で:大正作家の翻訳
 2 谷崎潤一郎訳トマス・ハーディー
 3 佐藤春夫訳エドガー・アラン・ポー
 4 芥川龍之介訳テオフィール・ゴーティエ
第三章 翻訳者としての詩人たち
 1 「方便」としての翻訳——三好達治の翻訳
 2 逐語訳から本歌取りとしての翻訳へ——立原道造訳テーオドール・シュトルム
 3 ファンタジーを訳すには——堀口大学の訳業
第四章 戦後作家は何を訳そうとしたのか
 1 幻想の叙法——中村真一郎訳ジェラール・ド・ネルヴァル
 2 悪夢を訳す——長谷川四郎訳フランツ・カフカ
 3 瑞々しくもしたたかな語りを訳す——三浦朱門訳ウイリアム・サロイヤン
 4 音楽の予感——古井由吉訳ローベルト・ムージル
 5 短篇小説翻訳作法——吉行淳之介訳ヘンリー・ミラー
 6 「声」の再生——富岡多恵子訳ガートルード・スタイン
 7 字幕から翻訳へ——池澤夏樹と世界文学
 8 アンチヒーローの系譜を訳す——小島信夫訳バーナード・マラマッド
 9 人称代名詞の間に——野坂昭如訳トルーマン・カポーティ
おわりに

【著者紹介】
1948 年、東京生まれ。東京大学文学部仏文科に進んだが、英文科に転じて卒業、同大学院比較文学比較文化専攻修士課程修了、大谷女子大学専任講師、神戸大学助教授、京都大学助教授、東京工業大学教授を経て、2005年から東大大学院総合文化研究科教授。2007年日本比較文学会会長に就任。2008年東大比較文学会会長。2008年東大比較文学会会長。主な著書に、『現代アメリカ文学を翻訳で学ぶ』(バベル・プレス)、『翻訳街裏通り
わが青春のB級翻訳』(研究社出版)。主な共編に、『翻訳の方法』(川本皓嗣共編、東京大学出版会)、『翻訳を学ぶ人のために』(安西徹雄,小林章夫共編、世界思想社)。主な訳書に『セクサス
薔薇色の十字架刑』ヘンリー・ミラー(水声社)、『リンドバーグの世紀の犯罪』グレゴリー・アールグレン、スティーブン・モニアー(朝日新聞社)などがある。