2013-08-09

カフカの同時代人:カール・ポランニーとB・マリノフスキー

ポランニー
ぽらんにー
Karl Polanyi
[1886—1964]

ハンガリー生まれの経済学者。主としてアメリカで活躍。ブダペスト大学その他で哲学と法学を学び、第一次世界大戦後ウィーンで雑誌の編集に従事。ナチスに追われてイギリスに移り、オックスフォード大学の課外活動常任委員会の講師その他を経てコロンビア大学客員教授となり、経済史を講義。物資の交換形態として、互酬性、再分配、(市場)交換の3様式を摘出し、交換形態の分析により、近代の市場経済社会と、その他の非市場社会とを同時に扱うのを可能にした。近代西欧の市場経済が人類史上、特殊であることを示し、経済人類学の発展に多大の貢献をした。主著として『大転換』(1944)、『ダホメと奴隷貿易』(1966/邦訳名『経済と文明』)などがある。なお、物理化学者、社会科学者のミヒャエル・ポランニーは弟、化学者のジョン・ポランニー(1986年ノーベル化学賞受賞)は甥(おい)である。
[豊田由貴夫]

参考文献・音響映像資料:

栗本慎一郎・端信行訳『経済と文明』(1975・サイマル出版会)
吉成英成・野口建彦訳『大転換——市場社会の形成と崩壊』(1975・東洋経済新報社)
玉野井芳郎・栗本慎一郎・中野忠訳『人間の経済』〓・〓(1998・岩波書店)
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マリノフスキー
まりのふすきー
Bronislaw Kasper Malinowski
[1884—1942]

ポーランド生まれの社会人類学者。クラクフ大学で物理学と数学を学んだが、フレーザーの『金枝篇(へん)』を読んで感動し人類学を志した。1910年にイギリスに渡り、セリグマンCharles
Gabriel Seligman(1873—1940)の指導を受けた。1914年から1918年にかけてニューギニア東端北部にあるトロブリアンド島において、参与観察法に基づく集中的な調査を行い、今日の人類学の基礎ともいえるフィールドワークの方法を確立した。1927年にロンドン大学の人類学主任教授となり、エバンズ・プリチャード、フォーテス、ファース、リーチなどその後のイギリス社会人類学を担う学者を数多く指導した。
 彼の学問上の功績は、当時の進化論や伝播(でんぱ)論といった歴史主義的な思考方法から脱却し、「文化」と社会の現象を現在的視点にたった調査によって経験的に把握、機能的に説明し、「文化」を構造として理解したことと、機能主義人類学を創始したことである。マリノフスキーの場合、「文化」とは、物質的、行動的、精神的な要素が有機的に関連しあった統合体であり、文化は閉じられた体系なのである。そのことから異文化間の比較が可能になり、本来の目的である文化の普遍的理解を試みようとした。彼の文化的制度が機能的に個々人の生理学的な欲求を充足させるという考え方には、生理学と心理学の影響が強く認められる。この点が、同時代の機能主義者で人類学を社会の規範の研究に限定したラドクリフ・ブラウンと異なっている。ラドクリフ・ブラウンの、自然科学の方法に倣った社会理解が社会人類学の主流を占めるようになり、マリノフスキーが文化の深層にかかわる人間研究を行ったことは、一時期看過されるようになってしまった。彼の文化理解における一般化は、欲求の充足をおもな根拠としているが、それは単純でありすぎるとし、またトロブリアンド島の文化を一般化しすぎると批判されることも多かった。しかしながら、詳細な民族誌的研究は、人類学研究の一つの成果であり、また彼の示した個人と文化の問題は今後いっそう展開されるべき学問的課題といえよう。
[熊野 健]

B・マリノフスキー著、姫岡勤・上子武次訳『文化の科学的理論』(1958・岩波書店)
マリノフスキー著、藤井正雄訳『文化変化の動態』(1963・理想社)
寺田和夫・増田義郎訳『西太平洋の遠洋航海者』(『世界の名著59 マリノフスキー、レヴィ=ストロース』所収・1967・中央公論社)
マリノウスキー著、泉靖一・蒲生正男・島澄訳『未開人の性生活(抄訳)』(1971/新装版・1999・新泉社)

未開社会における犯罪と慣習
みかいしゃかいにおけるはんざいとかんしゅう
Crime and Custom in Savage Society

B・マリノフスキーの初期の主要著作の一つ。1926年ロンドンで刊行された。彼がニューギニア北方のトロブリアンド島に約3年間居住し、原住民の社会規範を現地調査し、分析した成果である。マリノフスキーは、法は権利・義務の対抗を基礎とした行為規範であって、これらの行為規範の遵守は刑罰で強制されるからではなく、互酬性、公然性という拘束力をもつ社会機構によって担保されていることを明らかにした。本書において、刑法、民法の区別を用いた点などは評価しえないが、彼が法を社会統制の一つとして位置づけたことは法社会学という新学問を創設することに寄与した。日本における初訳は1942年(昭和17)に改造社から出版された。
[有地 亨]

西太平洋の遠洋航海者
にしたいへいようのえんようこうかいしゃ
Argonauts of the Western Pacific

「社会人類学の父」とよばれるB・マリノフスキーの主著の一つ。「メラネシアのニューギニア群島における、原住民の事業と冒険の報告」という副題をもつ。トロブリアンド諸島の現地調査に基づいて、人々が近隣諸島民との間で行う儀礼交換を叙述する。クラとよばれるこの制度は、ニューギニア島の東に位置し、文化も言語も互いに異なるいくつかの小島を円環状に結ぶ交換システムで、このために島民は死を賭(と)した大航海を遂行するのである。マルセル・モースが『贈与論』(1925)中で引用して以来、人類学以外の分野でも広く知られるようになった。1922年の初版以来、現地調査という新しい方法論を開いた書として、また経済的必要性から物の交換がなされるとする経済学の常識に対する挑戦として多くの読者を得、版を重ねている。
[山本真鳥]