2010-06-10

田中純『政治の美学—権力と表象』(東京大学出版会、2008.12)

田中純『政治の美学』

東京大学出版会,2008年


ISBN978-4-13-010109-7, 判型:A5, 624頁

税込5250円/本体5000円

政治的暴力が美化される情動の論理を,芸術や学問と政治が交差する領域において探求する表象文化論のスリリングな実践.政治的情動と官能的な美が共犯関係を結ぶ過程を,テクスト分析・イメージ分析によって探る.時代論,政体論,結社論,表象論の四部構成.

目次

I 一九七〇年代のナチ・テロル・ロック ——時代論

序「ファシズムの美学」再考 ——スーザン・ソンタグ「魅惑するファシズム」

美と腐敗 猥褻な理想と暴力のエロス化


1 キッチュな黙示録 ——ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク『ヒトラー、ドイツからの映画』

ヒトラー映画『没落』 死のキッチュとその累乗 集団的記憶の徹底操作——ジーバーベルク『ヒトラー、ドイツからの映画』(一)
導入部の分析——ジーバーベルク『ヒトラー、ドイツからの映画』(二) 人形による悲哀劇——ジーバーベルク『ヒトラー、ドイツからの映画』(三)
審美主義の逆説


2 白い恐怖、赤い亡霊 ——クラウス・テーヴェライト『男たちの妄想』と一九七〇年代ドイツ

観客のまなざしとファシズム──パゾリーニ『サロ、あるいはソドムの一二〇日』 堤防としての身体──テーヴェライト『男たちの妄想』(一)
生まれきらなかった男たち——テーヴェライト『男たちの妄想』(二) もうひとつの皮膚──テーヴェライト『男たちの妄想』(三)
歴史認識と無意識──テーヴェライト『男たちの妄想』(四) 自伝から同時代史へ 赤軍派の亡霊 「抽象急進主義」と芸術


3 自殺するロックンロール ──デヴィッド・ボウイにおけるロック・イデオロギー

ロック・イデオロギーの「呼びかけ」 分身という戦略──『ジギー・スターダスト』 ロックの「時間」と「夢」
総合芸術作品のメディア力──『ダイアモンドの犬たち』 ロックの臨界点──『ロウ』


第I部・結び──亡霊的権力あるいは権力の亡霊


II 権力の身体 ——政体論

序 権力の三つの身体 ——聖体から革命の身体へ

聖体の超実在性 国家という怪物の身体 理想的身体とその脆さ


1 ギリシア幻想の身体 ——ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンと古代の模倣

禁忌の土地 完全な身体というファンタスム 寓意的解体のまなざし 古代を「もどく」


2 レヴィヤタン解剖 ——カール・シュミットにおけるイメージ・表象・身体

カール・シュミットのイコノロジー 時間の政治的イコノグラフィー 表象の過剰補償 近代的政治の身体あるいは肉 獣人としての主権者の肖像


3 子午線のデザイン ——カール・シュミット『大地のノモス』

ヨーロッパの美的政治とその解体 子午線の彼方──シュミットとコジェーヴ


4「英霊」の政治神学 ——橋川文三と「半存在」の原理

二つの生命 幽顕思想と祖霊信仰 天皇制政治神学の教理問答 「死のメタフィジク」と「死に損い」——橋川文三の思想的根拠(一)
「超越者としての戦争」——橋川文三の思想的根拠(二) 「美」に抗する「歴史」——橋川文三の思想的根拠(三)


第II部・結び──芸術家という「王」たち


III 男たちの秘密 ——結社論

序 男性結社のエロス ——三島由紀夫と結社論の諸問題

恋する結社 ドイツにおける男性結社論の系譜 脆弱な男性性 稚児と幼童天皇 絶対者との契り


1 主権の秘密 ——オットー・ヘフラー『ゲルマン人の祭祀秘密結社』とその周辺

『年齢階梯制と男性結社』から『古ゲルマンの青年入社式と男性結社』へ
社会・文化的症候としての神話学──ヘフラー『ゲルマン人の祭祀秘密結社』(一)
エクスタシー的儀礼からの国家秩序の生成──ヘフラー『ゲルマン人の祭祀秘密結社』(二) ギンズブルグによるヘフラー批判とその盲点
狼たちの結社——ヘフラー周辺の議論から カネッティの群衆論と『ゲルマン人の祭祀秘密結社』


2 戦士の到来 ——社会学研究会とジョルジュ・デュメジル

秘密結社と「冬の風」 戦士と魔術師──一九三〇年代のデュメジル(一) 生ける神話──一九三〇年代のデュメジル(二)
聖社会学と「政治の審美化」 戦士の罪──デュメジルとクラストル


3 亡命者たちの山 ——日本における男性結社論の系譜

「無縁」な者たちの「組合」——中沢新一『芸術人類学』からの遡行(一) 王と山伏──中沢新一『芸術人類学』からの遡行(二)
『古日本の文化層』と「日本とゲルマンの祭祀秘密結社」 新羅花郎とその変容 亡命の民たち


第III部・結び──保田與重郎『萬葉集の虗藭』とカントロヴィッチ「秘密のドイツ」


IV 建築と政体 ——表象論

序 建築空間の政治学 ——ミース、アールト、ル・コルビュジエ

帝国・小国・遊牧民


1 近代というナルシス ——ル・コルビュジエの遡行的問い

水上のユートピア パルテノン神殿と建築の決定的瞬間 幾何学と起源 建築と表象


2 小国民の建築 ——アルヴァ・アールトの「小さな人間」

建築の戦い 小国民の政治と芸術 ヘテロトピア・触覚性・遊牧民


3 ファシズムの表象 ——ジュゼッペ・テラーニの倒錯的合理主義

裏返された「ガラスの家」──カーサ・デル・ファッショ 古代との闘争——ダンテウム 建築と政治


4「どうしようもないもの」との葛藤 ——堀口捨己における日本・近代・建築

「様式なき様式」の形容矛盾 庭という夢の舞台 パルテノンの女神 「ほのかなる かそけきもの」へ


第IV部・結び──ナルシスたちの闘争と逃走


エピローグ


附録

年表

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