松岡 光治 編
A5判, xii+288ページ
定価 3,150円(本体 3,000円+税)
ISBN 978-4-271-21016-0
2012年は国民的人気を博したヴィクトリア朝の作家—1812年2月7日(金)に生まれたチャールズ・ディケンズ—の生誕二百年にあたります。
その記念事業の一環として企画された本書は、ディケンズ・フェロウシップ日本支部の会員15名が、彼の15の長篇小説をそれぞれ担当し、〈暴力〉に焦点を絞って書いた論文のアンソロジーです
。
それぞれの章には扉絵と4つの図版が掲載されており、ディケンズ文学だけでなくヴィクトリア朝における暴力問題が様々な角度から論じられています。
目 次
まえがきに代えて——暴力と想像力
序 章 「抑圧された暴力の行方」 (松岡光治)
第1節 産業革命期とヴィクトリア朝の社会風潮
第2節 暴力のジェンダー化と二重規範
第3節 抑圧の移譲と階級問題の解決策
第4節 ショーヴィニズムによる人種差別
第1章 『ピクウィック・クラブ』 (中和彩子)
「ピクウィック氏のげんこつ」
第1節 暴力の抑圧
第2節 暴力と身分
第3節 一発のげんこつ
第4節 もう一発のげんこつ
第2章 『オリヴァー・トゥイスト』 (松岡光治)
「逃走と追跡——法と正義という名の暴力」
第1節 孤独からの逃走
第2節 追跡の快楽
第3節 恣意的な暴力としての法
第4節 正義に内在する暴力性
第3章 『ニコラス・ニクルビー』 (西垣佐理)
「喜劇としての暴力——舞台と社会の間」
第1節 喜劇およびメロドラマの伝統と暴力場面の意義
第2節 舞台背景としての社会問題
第3節 劇的効果を生み出す暴力
第4節 〈喜劇〉から〈小説〉へ
第4章 『骨董屋』 (猪熊恵子)
「音の海を逃れて」
第1節 傷跡に語らせよ
第2節 クウィルプの声、その暴力
第3節 食い違う語り手のシルエット
第4節 「その話はもうやめろよ、チャーリー」
第5章 『バーナビー・ラッジ』 (渡部智也)
「眠りを殺す」
第1節 究極の暴力としての断眠
第2節 眠りが奪われる
第3節 眠りを取り戻せ
第4節 暴動はまた起こるのか
第6章 『マーティン・チャズルウィット』 (畑田美緒)
「声なきものたちの逆襲」
第1節 権威の喪失
第2節 老人たちの復権
第3節 暴力依存と死者の告発
第4節 新大陸VS旧大陸
第7章 『ドンビー父子』 (松村豊子)
「疾走する汽車と暴力」
第1節 決闘の封印
第2節 虐待の激化
第3節 家庭内における暴力の規制と抑制
第4節 線路は続くよ、どこまでも
第8章 『デイヴィッド・コパフィールド』 (川崎明子)
「海の抑圧——ロビンソン・クルーソー挽歌」
第1節 暴力をふるう海
第2節 船に乗るスティアフォース
第3節 浜に揚がるエミリー、川を嘆くマーサ
第4節 陸を選ぶデイヴィッド
第9章 『荒涼館』 (中村 隆)
「国家・警察・刑事・暴力装置」
第1節 国家という暴力装置
第2節 無名の警官の暴力
第3節 警察という暴力装置
第4節 バケットの暴力
第10章 『ハード・タイムズ』 (玉井史絵)
「教育の(暴)力」
第1節 教育と暴力
第2節 学校教育と徒弟教育
第3節 「合理的な学校」
第4節 〈娯楽〉という教育
第11章 『リトル・ドリット』 (武井暁子)
「内向する暴力——病的自傷者はなぜ生まれるのか」
第1節 病的自傷の定義
第2節 自傷の要因
第3節 ヤマアラシのジレンマ
第4節 排除/矯正される自傷者
第12章 『二都物語』 (矢次 綾)
「孤独な群衆の暴力性」
第1節 未曽有の大事件を記述する
第2節 ディケンズによるサンキュロティズムの研究
第3節 群衆が潜在的に保持する暴力性
第4節 群衆の孤独と暴力性
第13章 『大いなる遺産』 (鵜飼信光)
「種子=ピップは牢を破って外で花を咲かせるか」
第1節 穏やかどころではない人々
第2節 「そんなにも多くの小さな引き出し」
第3節 取り壊されたサティス・ハウス
第4節 打つことの暴力と建設、逃げ続ける一人の囚人
第14章 『互いの友』 (宮丸裕二)
「腕力と知力——欲望と階級」
第1節 階級と肉体の結びつき
第2節 暴力と知性に挟まれる中産階級
第3節 中産階級に残像として映る傷跡に充ちた世界
第4節 肉体性忌避の現代
第15章 『エドウィン・ドルードの謎』 (加藤 匠)
「クロイスタラムに潜む闇の暴力」
第1節 過去の痕跡
第2節 「別種の恐ろしい奇跡」
第3節 直観と論理
第4節 クロイスタラムに落ちる帝国の影
あとがき
使用文献一覧
図版一覧
執筆者一覧
索引