# 出版社: 明治書院 (2008/02)
# ISBN-10: 4625684064
# ISBN-13: 978-4625684067
# 発売日: 2008/02
■内容紹介
「人はなぜアーティスト になりたがるのか」−芸術がアートと言い換えられるようになった80年代、カタカナ職業の増加と前後してアーティストという呼び名も溢れていった。
いまや美術界だけに留まらず、芸能・歌謡界、美容業界、工芸・クラフト界なども席巻する「アーティスト」たち。何故、アーティストと呼ばれたいのか。なにをもってア—ティスト/アートとするのか。多彩な切り口から「アーティスト」を考える。
■目次
美術家からアーティストへ
アーティストだらけの音楽シーン
芸能人アーティスト
『たけしの誰でもピカソ』と『開運!なんでも鑑定団』
職人とクリエイター
「美」の職人アーティスト達
私もアーティストだった
「アーティストになりたい」というココロ
■著者
大野左紀子 紹介
1959年、名古屋生まれ。東京芸術大学美術学部彫刻科卒業。
1983年より2002年まで美術作家活動を行う。現在、名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書『モテと純愛は両立するか?』(夏目書房)ほか。
http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/
世界との違和を生きる
アーティストには「自分はアーティストである」「アート活動をしている」という自己認識がありますが、それがないにも関わらず「アーティスト」と呼ばれる人々がいます。正規の美術教育を受けておらず、ただ自分の中の不可解な表出欲にだけ突き動かされて、次々と「何か」を作ってしまう。作ったものがアート作品かどうか、人にどう見られるかなど考えもしない。そうした人々を指して「アウトサイダー・アーティスト」と呼びます。
近年ではヘンリー・ダーガーが有名です。引きこもりに近い極度の孤独の中で、何十年にも渡って描き続けられた膨大な量の絵が死後に発見され、その荒唐無稽なファンタジー世界は多くの人々を驚嘆させました。
アウトサイダー・アーティストに共通しているのは、「世界と自分との不調和」という強い違和の感覚です。自分にとってこの現実世界にはリアリティが感じられない。そこで生の実感を得ることはできない。だから、仮構の世界を強固に作り上げようとする。それは自らが現実世界に押し潰されないための、必要に迫られた行為です。いわゆる「アート活動」ではないのです。しかしこの「世界と自分との不調和」の感覚こそは、アーティストの創作動機の根底にあるものだと思います。
20世紀前半のアーティスト達の中には、個々の表現で従来の美術を塗り替えようとしただけでなく、革命や社会運動に身を投じこの現実を変えようとした人々が多くいました。もちろん世界は容易には変わってくれないし、従って違和感も簡単には消えなかった。が、それはやはり、自らが現実世界に押し潰されないための、必要に迫られた行為だったでしょう。
そのような止むに止まれぬ無為の行為とそこに賭けられた闇雲なエネルギーを、他に名付けようもなく「アート」と言うのです。「アート」はアーティストと名乗る者が作っているから「アート」なのではない。そう考えると、アートやアーティストに対する見方も変わってくるのではないでしょうか。