2010-03-12

『翻訳理論の探求』 アンソニー・ピム 著

<みすず書房>
『翻訳理論の探求』 アンソニー・ピム 著
税込価格 : \5250 (本体 : \5000)

A5判 タテ210mm×ヨコ148mm/320頁
定価 5,250円(本体5,000円)
ISBN 978-4-622-07518-9 C1080
2010年3月10日発行

http://www.msz.co.jp/book/detail/07518.html

翻訳理論の探求
EXPLORING TRANSLATION THEORIES

著者
アンソニー・ピム
訳者
武田珂代子


翻訳の根本問題を多面的に考察した力作。言語学、哲学、社会学、カルチュラルスタディーズ、比較文学の最新成果をふまえた洞察が、翻訳の研究に、実践に、多くの手がかりを与えるだろう。

本書は西洋の翻訳理論を土台とし、言語学的アプローチに基づく古典的な翻訳理論から、文化翻訳を含む最近のモデルまで、翻訳理論の展開を考察する。
焦点になるのは、等価、機能主義、記述的翻訳研究、翻訳の不確定性、ローカリゼーション、文化翻訳といった中核的パラダイム、およびその関連理論である。ポストモダン・カルチュラルスタディーズや社会学のモデルとして翻訳を扱うアプローチにも触れ、従来の翻訳の概念を超えた取り組みが紹介される。

各理論の系譜・繋がり、パラダイム間の相違点、また各パラダイムに対する批判や擁護が明確に提示されている。さらに各章末の「課題の提案」が、翻訳事象に対する読者自身の問題意識を喚起するだろう。
ジェレミー・マンデイ『翻訳学入門』が、翻訳学の全体像が分かり、研究の糸口の指針となる優れた入門書であるのに対し、この本は「翻訳とは何か」という根源的な議論への起爆剤となる書物である。

著者アンソニー・ピムは、比較文学を学んだ後、社会学、哲学、言語学、翻訳学を修めた。現在、翻訳通訳・異文化間研究の分野で研究と実践指導にあたっている。世界中で講演や講義を行いながら研究者育成に精力的に取り組んでおり、そのカリスマ性に惹かれた多くの新進翻訳研究者が師事を仰ぐ存在である。
英語、フランス語で発表してきた著書、編書、論文は200を超え、翻訳理論・研究の分野で最も引用される学者の一人だ。最新の翻訳事象に注意を向け、翻訳の根源的テーマに対し鋭い問題提起をし、困難な課題に真っ向から挑戦し続けている。本書は、そうした著者の、翻訳学への情熱と健全な批判精神がみなぎる一書である。

カバー画:室井佳世「萌黄」(2007年)
「翻訳理論の探求」の著訳者:

アンソニー・ピム
Anthony Pym
オーストラリア、パース出身。オーストラリアで比較文学を学んだ後、フランス、米国、ドイツで比較文学、哲学、社会学、言語学、翻訳学を学ぶ。フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)より社会学で博士号取得。米国、ドイツでも哲学、社会学、言語学、翻訳学を研究。現在、スペインのロビラ・イ・ビルジリ大学教授、翻訳通訳・異文化間研究博士課程プログラムの責任者。モントレー国際大学大学院客員教授。翻訳学における根源的テーマで鋭い問題提起をし続けると共に、社会学的アプローチや翻訳とテクノロジーの関係など、新分野での研究をリードしてきた。翻訳学の最先端を走り、翻訳研究の国際的ネットワーク作りや若手育成にも精力的に取り組む。カリスマ性と面倒見のよさで、若い研究者にとってはスター的存在。これまで、英語、フランス語で著書、編集書、論文を200以上発表。翻訳研究分野で最も引用される研究者の一人。
オフィシャル・ウェブサイトhttp://www.tinet.cat/~apym/
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
武田珂代子
たけだ・かよこ
熊本市生まれ。現在、カリフォルニア州パシフィック・グローブ在住。モントレー国際大学(MIIS)翻訳通訳大学院准教授(通訳実習、通訳研究の科目を担当)。また、会議・法務通訳者として活躍している。MIISで翻訳・通訳学修士号、ロビラ・イ・ビルジリ大学(スペイン)で翻訳通訳・異文化間研究博士号を取得(指導教授の一人は『通訳学入門』[邦訳・みすず書房2008]の著者フランツ・ポェヒハッカー)。著書:『東京裁判における通訳』(みすず書房2008)。論文:訴訟通訳、通訳教育、第二次世界大戦中の日系米人語学兵、継承語と国際紛争、東京裁判における通訳等に関する英語論文や発表多数。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

目次

図表のリスト
謝辞
まえがき

第1章 翻訳理論とは何か
 1.1 「理論づけ」から「理論」へ
 1.2 「理論」から「パラダイム」へ
 1.3 本書の構成
 1.4 なぜ翻訳理論を学ぶのか
 1.5 翻訳理論はどう学ぶべきか
第2章 自然的等価
 2.1 概念としての自然的等価
 2.2 「等価」対「構造主義」
 2.3 自然的等価を維持する翻訳手順
 2.4 テクストベースの等価
 2.5 「比較のための第三項」と「意味の理論」
 2.6 自然的等価の長所
 2.7 頻繁な議論
 2.8 歴史的な下位パラダイムとしての自然的等価
第3章 方向的等価
 3.1 二種類の類似性
 3.2 等価の定義における方向性
 3.3 検証としての逆翻訳
 3.4 方向的等価の二項対立性
 3.5 分類は二つだけか
 3.6 関連性理論
 3.7 幻想としての等価
 3.8 方向的等価の長所
 3.9 頻繁な議論
第4章 目的
 4.1 新パラダイムの鍵としてのスコポス
 4.2 ライス、フェアメーアとスコポス的アプローチの起源
 4.3ホルツ=メンテーリと翻訳者の専門知識に関する理論
 4.4 目的に基づいた「事足りる」翻訳の理論
 4.5 誰が目的を決めるのか
 4.6 目的パラダイムの長所
 4.7 頻繁な議論
 4.8 プロジェクト分析への応用
第5章 記述
 5.1 等価パラダイムに何が起こったか
 5.2 記述パラダイム内の理論的概念
 5.3 規範
 5.4「想定された」翻訳
 5.5 目標側の優先
 5.6 翻訳の普遍的特性
 5.7 法則
 5.8 頻繁な議論
 5.9 記述パラダイムの行方
第6章 不確定性
 6.1 なぜ「不確定性」か
 6.2 不確定性原理
 6.3言語の決定性と翻訳の非決定性
 6.4 不確定性と共存するための理論
 6.5 脱構築
 6.6 では、どう翻訳すべきか
 6.7 頻繁な議論
第7章 ローカリゼーション
 7.1 パラダイムとしてのローカリゼーション
 7.2 ローカリゼーションとは何か
 7.3 国際化とは何か
 7.4 ローカリゼーションは新しい概念か
 7.5 テクノロジーの役割
 7.6 翻訳はローカリゼーションの一部か
 7.7 頻繁な議論
 7.8 ローカリゼーションの行方
第8章 文化翻訳
 8.1 新世紀のための新パラダイムか
 8.2 バーバと「非実質的な」翻訳
 8.3 翻訳不在の翻訳:広範な学問の希求
 8.4 翻訳としての民族誌学
 8.5 翻訳社会学
 8.6 スピヴァクと翻訳の政治的精神分析
 8.7 「一般化された翻訳」
 8.8 頻繁な議論

あとがき:自分の理論を生み出そう
訳者あとがき
付録:訳者と原著者のQ&A
参考文献
人名索引
事項索引