2012-05-28

『負債と報い —— 豊かさの影 —— 』

マーガレット・アトウッド
佐藤 アヤ子 訳
■体裁=四六判・上製・256頁
■定価 2,940円(本体 2,800円 + 税5%)
■2012年3月28日
■ISBN978-4-00-024666-8 C0098

負債は古来,宗教や文学の重大テーマであり,人間社会のあり方そのものに深く関わる問題である.本書は,サブプライム・ローン問題を発端にリーマンショックという形で顕在化し今やきわめて現代的トピックとなった「負債」の問題をめぐり,作家,詩人,批評家,社会運動家として活躍するM.アトウッドが,皮肉とユーモアを交えつつ巨視的に論じた文明批評.

■目次
第一章 古代の貸借均衡
第二章 負債と罪
第三章 筋書としての負債
第四章 影なる部分
第五章 清算

謝辞
許諾
訳者あとがき
参考文献

■訳者からのメッセージ
アメリカが2003年3月にイラク侵攻を開始したとき,マーガレット・アトウッドはカナダの新聞『グローブ・アンド・メイル』に「アメリカへの手紙」と題する記事を書きました.そのなかで,アメリカ人は自分たちが抱えた〈負債〉を理解しているのでしょうか,と問うています.以来「負債」は彼女の考察テーマの一つとなっていくのです.
 負債は古来より,宗教や文学の重要テーマであり,人間社会のあり方そのものに深く関わる問題です.本書が出版された2008年は,サブプライム・ローン問題を発端にリーマン・ショックが世界経済を揺るがせた年です.負債を連動させる組織体系の破綻によって経済危機をもたらした〈負債と返済〉という時宜を得たテーマを扱っているために,出版と同時に本書はベストセラーとなり,高い評価は今なお続いています.
 本書は映画化され,2012年度のサンダンス・フィルムフェスティバルのドキュメンタリ—部門で好評を得て,現在カナダやアメリカで上映されています.
 2010年9月の「第76回国際ペン東京大会2010 環境と文学『いま,何を書くか』」で,アトウッドは環境をテーマに基調講演を行いました.
 環境への関心は彼女の近年の小説を見ても明白です.本書の終章でも負債の「清算」というテーマを広く環境問題と結びつけ,今や人間が自然環境に負う「借り」を返す時であること示唆しています.またアトウッドは,東日本大震災に対する日本人への希望のメッセージの中で,原発が抱える「負債」に言及しています.「今回の東日本大震災によって世界中の人たちは教訓を学びました.天災が人工テクノロジーの暴走と結びつくと,予想以上の破壊をもたらすという教訓です」(「月刊文藝春秋
3月臨時増刊号」2012・03・01)と.
 本書は顕在化してきた現代的トピックである「負債」の観念や問題をめぐり,作家,詩人,批評家,環境活動家としてカナダを代表する知識人であるアトウッドが,風刺とユーモアなどの文学的手法を駆使しながら巨視的に論じた文明批評といえます.


■訳者
佐藤 アヤ子(さとう あやこ)
明治学院大学教授.日本カナダ文学会会長.日本ペンクラブ会員.専攻=カナダ文学,現代アメリカ文学.著書に,『J.D.サリンジャー文学の研究』(共編)ほか,訳書に,アトウッド『またの名をグレイス』(上・下)(岩波書店刊),『寝盗る女』(上・下)(共訳),ハイウエイ『ドライリップスなんてカプスケイシングに追っ払っちまえ』,プシャール『孤児のミューズたち』,サリンジャー『ハプワースの16日目』(共訳),フライ『同一性の寓話』(共訳),など.

■著者
マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood)
1939年生まれ.カナダを代表する作家,詩人,長編小説,短篇集,児童書,ノンフィクション,詩集,評論等,幅広い作家活動を展開.これまで,カナダ最大の文学賞であるカナダ総督文学賞(2回),ギラー賞(1回)をはじめ,ブッカー賞,アーサー・C・クラーク賞,コモンウェルス作家賞,ハメット賞などを受賞.
邦訳書に『またの名をグレイス』(上・下)(岩波書店刊)をはじめ,『侍女の物語』『スザナ・ムーディーの日記:マーガレット・アトウッド詩集』『浮かびあがる』『青ひげの卵』『食べられる女』『マーガレット・アトウッド短篇集』『寝盗る女』(上・下)『昏き日の暗殺者』『闇の殺人ゲーム』『ペネロピアド』『ほんとうの物語』など.