[監訳者]海老根剛
[訳者]柳橋大輔+遠藤浩介
定価=本体 6,000円+税
2011年11月25日/A5判並製/592頁/ISBN978-4-88303-299-0
三元社
■ヴィデオは過渡的なメディアではない。電子信号の変換と即時再生の再帰的構造に立脚する真に視聴覚的なメディアとして、ヴィデオは映画ともコンピューターグラフィックスとも異なる独自の映像美学を実現する。映画映像やコンピューター映像とは異なる構造とダイナミズムを持つヴィデオ映像の宇宙の解明。
■この書物は、ヴィデオというメディアのテクノロジー的基盤と美的表現の多様な展開を透徹した視点から論じた研究として、いまのところ類書のないヴィデオ研究の成果となっています。映像文化論やメディア研究では過去のメディアとしてお払い箱にされている感のあるヴィデオですが、映画映像やコンピューター映像とは明確に異なる独自の特性を持つ映像表現として、ヴィデオは独自の美学を発展させてきました。そうしたヴィデオのポテンシャルの考察は、デジタル/アナログの二元論や映画とコンピューターの二元論に対して批判的な視座を提供してくれます。その意味では、ヴィデオ研究者のみならず、デジタルメディアや映画の研究者にとっても興味深い研究だと言えるでしょう。
■本書で論じられている映像作品へのリンクを集めたウェブサイトも同時に開設しました。このサイトで作品を実際に見ながら本書を読むと、一層、理解が深まると思いますので、こちらもご参照ください。
■目次
[目次]
まえがきにかえて 私とヴィデオ(アート) 伊奈新祐 7
序論:視聴覚メディア 13
第一部:テクノロジーそしてメディアとしてのヴィデオ 41
メディア発展の系譜学的モデル 44 メディアシステムの変動とヴィデオの独自性の美学的分析 49
メディア論的考察 50
デジタルとアナログ:既存の理論的アプローチの不十分さ 50 ハイブリッド化の概念 55
表象/電子映像/合成映像 60 電子的変換とデジタル的シミュレーション 63
表象/電子映像/コンピューター映像 65 ヴィデオとハイブリッド化 68
視覚化をめぐる議論 72
画像的転回 72 エイゼンシュテインの試み 75 フルッサーの技術映像論 76
図像的転回/シミュレーションとディシミュレーション 80 メディア映像の諸類型 82
ヴィデオ映像の批判的ポテンシャル 84 視覚文化/電子文化 85
技術と機器に関わる諸前提 88
ヴィデオの技術的構造 88 ヴィデオ映像の諸特性 92 ヴィデオとテレビ 94 電子映像とデジタル映像 97
映画/ヴィデオ/コンピューター 100 ヴィデオとテレビの成立過程 101 ヴィデオの再帰的諸形式 104
マトリクス映像 107
不可視的秩序の可視的構造化 107 マトリクスの概念 108
ヴィデオにおけるマトリクス現象:ウッディ・ヴァスルカの習作 110 ベクトル循環のメカニズム 114
デジタルなシミュレーション映像 116 デジタル性と映像の隠喩 120
ヴィデオとコンピューターの結びつき:コード化とプログラミング 123
ハイブリッド化と反復的二重化:ビョークのミュージッククリップ 124
第二部:再帰的メディア 131
〈映像技術者〉の仕事 136 実験的ヴィデオ実践の三つの方向性 138
実験段階 140
ポータパックの登場 140 ヴィデオ誕生期のいくつかの場面 143 複数の同時並行的発展 147
ゲリラ・テレヴィジョン 152
アーティスト・ヴィデオ 155
ホワイトキューブへの抵抗 155 メディアの境界とその越境 156 マルチメディア的展示 157
コンセプチュアルなヴィデオ—パフォーマンス 159 女性表象の脱構築 160 公共映像との取り組み 161
観察・チェックのメディアとしてのヴィデオ 163 空間インスタレーションへの拡張 164
中継メディアとしてのヴィデオ 166 ヴィデオ使用のその他の諸方法 166 劇映画へのヴィデオの進出 167
ヴィデオ、映画、アートシーンの緊張関係 168
補論:映画、ヴィデオ、コンピューターの関係について 170
ヴィデオと実験映画の非対称的な相互関係 170 実験ヴィデオと実験映画の並行的発展 171
映画からヴィデオへの越境者たち 172 シャーリー・クラーク 173 エド・エムシュウィラー 175
ジャド・ヤルカット 177 拡張映画の別の方向性 179 映画とヴィデオへのデジタルテクノロジーの導入 180
パット・オニール 180 スタン・ヴァンダービーク 182 映画とヴィデオ:同時並行的発展 187
シンセサイザーとプロセッサー:定義と概説 188
実験ヴィデオ 195
ヴィデオ実践の映像技術的な方向性 195 実験ヴィデオで用いられた機器と装置 196
実験ヴィデオのアプローチとテクノロジーの発展の密接な結びつき 201 写真的思考からの離反 202
抽象映画と実験ヴィデオの相違点 205 ウッディ・ヴァスルカの Art of Memory 206 ゲイリー・ヒル 209
ナム・ジュン・パイク 212
実験ヴィデオの二重のアプローチ 214
ヴィデオ文化 217
ヴィデオ実践の三つの方向性 217 キッチン:メディア横断的な実験の場 221
メディアの誕生の諸段階 222 ヴィデオ文化的実践の端緒:アコンチとオッペンハイム 223
女性の身体表象の再帰的主題化:ローゼンバッハ、ジョナス、エクスポート、ペッツォルト 224
テレビ映像への介入:バーンバウム、パイク 224
写真的—映画的映像への介入:フォム・ブルッフとオーデンバッハ 226
映像レベルと対象レベルの緊張関係:キャンパス 227
二次元的摸像と三次元的シミュレーションの対置:中島 227
ヴィデオによる映像の再メディア化 228 映像性のダイナミズムの強化と圧縮:ギトンとランゴート 231
ダイナミズムの除去:レヴィーネ 231
メディア的リアリティの自己反省と閉回路の活用:セラとキースリンク 232
物語的リニア性とプロセス的視覚性の緊張関係:カエン 233
異所的なコラージュとしてのヴィデオ映像:カラス 233
ヴィデオ—スクラッチ:オルティスとアーノルト 234 コンピューターメディアにおけるスクラッチ: Jodi 235
可視性の限界の探究:ラーチャー 236 ヴィデオ映像の諸性質の意識化:フーヴァー 239
マトリクス映像における表面と構造の諸関係:ヒル 239
メディア言語の翻訳と電子的語彙の探究:ヴァスルカ夫妻 240
メディア的リアリティの多面的考察:ハーシュマン 241 ハイパーメディアへの移行:シーマン 243
電子的語彙の探究にほとんど寄与しないヴィデオ使用:ビル・ヴィオラの事例 245
マルチメディアへの拡張:アハティラ、アケルマン、ウェアリング 246
第三部:ヴィデオ美学 251
スケール、ペース、パターン 253 キャパシティ、速度、操作性 255 技術と美学の対話的関係 256
プロセス性と変換性 257 視聴覚性、再帰性、複数的な装置的秩序 259
ヴィデオの間メディア的な確立 259 ノイズからのヴィデオの誕生 261
視聴覚性(変換性)、再帰性(プロセス性)、抽象化(ノイズ) 263
機器、自己反省、パフォーマンス:ヴィト・アコンチとデニス・オッペンハイム 264
映像、摸像、メディア映像:ウルリケ・ローゼンバッハ、ジョーン・ジョナス、ヴァリー・エクスポート 281
ヴィデオ/ TV :ナム・ジュン・パイクとダラ・バーンバウム 297
ヴィデオ、写真、映画:クラウス・フォム・ブルッフとピーター・キャンパス 310
構造ヴィデオ:ミヒャエル・ランゴート、レス・レヴィーネ、ジャン=フランソワ・ギトン、リチャード・セラ、
ディーター・キースリンク 325
ヴィデオの音楽化:ロベール・カエン 341
マルチレイヤー化と圧縮:ピーター・カラス 349
ヴィデオ・スクラッチ:マーティン・アーノルトとラファエル・モンターニェス・オルティス 357
ヴィデオ・ヴォイド:デイヴィッド・ラーチャー 365
ミクロ次元/マクロ次元:ナン・フーヴァー 373
映像、テクスト、声、書字:ゲイリー・ヒル 380
ヴィデオとコンピューター:スタイナ・ヴァスルカとウッディ・ヴァスルカ 391
ヴィデオとヴァーチュアル環境:リン・ハーシュマン 428
ヴィデオ、詩学、ハイパーメディア:ビル・シーマン 438
ヴィデオ・インスタレーション:エイヤ=リーサ・アハティラ、シャンタル・アケルマン、ジリアン・ウェアリング 447
展望:複雑性とインタラクティヴ性 457
訳者あとがき 465
文献一覧 471
図版一覧 480
人名索引 486