2012-06-07

『シュンペーター伝—革新による経済発展の預言者の生涯』

■シュンペーター伝—革新による経済発展の預言者の生涯
 一灯舎 トーマス・K.マクロウ著、ThomasK.McCraw原著、八木紀一郎翻訳、田村勝省翻訳 価格:¥3,990

トーマス K. マクロウ 著 著
八木紀一郎 監訳
田村勝省 訳
2010年12月 発行
定価 3,800円
ISBN 978-4-903532-44-8

■目次

第I部 恐るべき子供(一八八三 - 一九二六):革新と経済学
プロローグ シュンペーターとその業績
第一章 故郷を離れる
第二章 性格の形成
第三章 経済学を学ぶ
第四章 徘徊
第五章 出世への歩み
第六章 戦争と政治
第七章 グラン・リフィウート
第八章 アニー
第九章 悲嘆
第II部 成人期(一九二六 - 一九三九):資本主義と社会
プロローグ シュンペーターは何を学んだか?
第十章 知性の新たな目標
第十一章 政策と企業家精神
第十二章 ボン大学とハーバード大学の往来
第十三章 ハーバード大学
第十四章 苦悩と慰め
第III部 賢人(一九三九 - 一九五〇):革新、資本主義、歴史
プロローグ どのように、なぜ歴史と取り組んだのか
第十五章 景気循環、企業史
第十六章 ヨーロッパからの手紙
第十七章 ハーバード大学を去る?
第十八章 不本意ながら
第十九章 エリザベスの勇気ある信念
第二十章 疎外
第二十一章 資本主義・社会主義・民主主義
第二十二章 戦争と困惑
第二十三章 内省
第二十四章 名誉と危機
第二十五章 混合経済に向けて
第二十六章 経済分析の歴史
第二十七章 不確定性の原則
第二十八章 結びの句
エピローグ 遺産
監訳者あとがき
写真出所

索引

■概要

本書はシュンペーターの数少ないが特異な伝記である.狭い意味でのシュンペーターの経済思想を扱うものではなく,波乱に満ちた人生と,様々な分野を統合して資本主義を徹底的に追求し理解しようとするシュンペーターの正にすさまじい生き方を描いている.本書の特徴は,シュンペーターが資本主義の本質を革新(イノベーション)としてとらえ,終生その研究に没頭し多くの大著を著したその過程と,その間に彼を支え続けた女性や同僚達について詳しく書かれていることである.

また,著者はシュンペーター自身だけでなく親しかった人達の日記や手紙,写真等を豊富に引用して,シュンペーターが生きた時代をリアリティをもって詳細に描き出している.著者は,たいへんな知日家だった最後の妻のエリザベスが,アメリカによる対日経済制裁は日本の戦線を拡大すること(真珠湾攻撃)を予告し,そのためFBI
からスパイとしてつけねらわれたことも取り上げている.

シュンペーターの資本主義の捉え方は,戦後の日本の経済発展,今日のアメリカ資本主義の停滞と没落,中国など新興国の発展,そして今後の日本の方向を考える上で役立つだろう.著者のトーマス
K. マクロウは1985年に歴史部門でピューリツアー賞を受賞している.また原著書はヘイグリー経営史最優秀出版賞,ジョセフ・J・シュペングラー経済学史賞,国際シュンペーター学会賞を受賞した好著である.

■トーマス K. マクロウ(THOMAS K. McCRAW)

トーマス K. マクロウはハーバード大学経営学大学院のストラウス記念・企業史名誉教授である.ハーバードビジネススクールで,マクロウ教授は1984-86
年にかけて研究部長を務めた.マクロウ教授は1985 年に Prophets of Regulation: Charles Francis
Adams, Louis D. Brandeis, James M.Landis, Alfred E. Kahn
でピューリッツァー賞(歴史部門)を受賞した.本書ではヘイグリー経営史最優秀出版賞,ジョセフ・J・シュペングラー経済学史賞,国際シュンペーター学会賞を次々に獲得した.また,ライブラリー・ジャーナル
と ストラテジー・+ ビジネスでベストビジネスブックに選ばれた他,ビジネス・ウィークやスペクテイター(ロンドン)で最優秀の本に選ばれている.最近の著書として,
American Business Since 1920: How It Worked (2009) がある.

■監訳者紹介
八木 紀一郎(やぎ きいちろう)

1947 年福岡県生まれ.
東京大学で社会学,名古屋大学大学院で経済学を学ぶ.
岡山大学助教授,京都大学経済学部教授をへて,現職,摂南大学経済学部長.
京都大学名誉教授,VCASI フェロウ.
経済理論学会,経済学史学会,進化経済学会に所属.
著書
『ウィーンの経済思想』(ミネルヴァ書房),『近代日本の社会経済学』(筑摩書房),『社会経済学』(名古屋大学出版会),Austrian and
German Economic Thought: From Subjectivism to Social Evolution
(Routledge).


■訳者紹介
田村 勝省( たむら かつよし)

1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店, ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.

訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『大転換 ——帝国から地球共同体へ』(一灯舎,2009 年)
『企業の名声 ——トップ主導の名声管理・回復十二か条』(同,2009 年)
『ウォール街の崩壊の裏で何が起こっていたのか? 』(同,2009 年)
『ニューエコノミーでアメリカが変わる!——幻の富から真の富へ、オバマ大統領への期待』(同,2009 年)
『世界給与・賃金レポート——最低賃金の国際比較 組合等の団体交渉などの効果、経済に与える影響など』(同,2010 年)

■評者 橋本 努 北海道大学大学院准教授

 20世紀を代表する三大経済学者の一人、ジョセフ・A・シュンペーターの決定的な伝記が現れた。

 資本主義の原動力として「創造的破壊」を称揚したシュンペーターは、毎日、自分を厳しく評価していた。日記では0点から1点満点までで、自己の達成度を記録したという。他方で彼は、一流の演技力でもって会話や講演を楽しんだ。財務大臣としての横顔もある。だが財産は市況の暴落で失ってしまった。それでも派手な生活を好み、数々の女性たちに囲まれた。栄光と挫折、愛と孤独という、波乱万丈の人生を送った巨人の実像が、いま鮮やかによみがえる。

 おそらくエコノミストやビジネスパーソンに必要な人生訓は、この一冊に詰まっているのではないか。それほどまでに感銘を受ける。シュンペーター本人、あるいは親しかった人たちが残した日記や手紙から、本書はさまざまな名言を抜粋する。人生を深く洞察するための、言葉の宝庫である。

 シュンペーターは悲劇の英雄であった。43歳にして母と妻とその新生児を同時に失い、絶望の淵に立たされた。「私はこれからの歳月のことを思うと身震いし、私はお前(妻)のいない人生に戦慄する」と彼は記している。「すべてが私の働く能力次第である。そうであれば、仮に私の私生活は終わったとしても、動力源は稼動し続けるだろう」。

新資料に基づいて書かれた本書は、ヘイグリー経営史最優秀出版賞、シュペングラー経済学史賞、国際シュンペーター学会賞、等々の賞を受賞。前作でピュリッツァー賞を授与されたハーバード大学教授の手による、渾身の作である。

 シュンペーターは逆説家であり、皮肉屋ともいわれた。たとえば彼は、創造的破壊の精神を鼓舞する一方で、実際には「保守主義」の立場をとっていた。創造的破壊は、大切な人間的価値を低下させることをよく知っていた。彼は、古きよき旧世界の芸術的達成を維持するために、民衆の革新勢力を抑えるべきだとも考えた。

 そんな保守主義者のシュンペーターが、名著『資本主義・社会主義・民主主義』では、社会主義への移行を必然的であると主張したのは、人を驚かせようとする彼の習癖ゆえだったのであろうか。

 弟子のポール・サミュエルソンは、師の性格に「大切にされてきた一人っ子に典型的」な不安定さを見抜いている。シュンペーターは、疎外された異邦人としての役割を演じていたのだと。だがたんなる道化師と呼ぶにはあまりに巨人すぎる。巨人は完璧な仕事の理念に突き動かされる。その執念に学びたい。

Thomas K. McCraw
米ハーバード大学経営学大学院のストラウス記念・企業史名誉教授。長年、ハーバード・ビジネススクール教授を務めた。本書でヘイグリー経営史最優秀出版賞、国際シュンペーター学会賞ほかを受賞。ピュリッツァー賞(歴史部門)の受賞歴もある。

一灯舎 3990円 609ページ