2013-04-29

日本独文学会2013年春季研究発表会発表要旨

第1日 5月25日(土)ポスター発表(13:00〜14:30) G会場(113教室)
役人フランツ・カフカと事故ネットワーク
横山 直生YOKOYAMA, Naoki
本ポスター発表は,未だ周知されているとは言えないフランツ・カフカの資料,
彼がプラハ労働者災害保険局で書いた『役所文書Amtliche Schriften』(Kritische
Ausgabe: S. Fischer. 2004)をめぐるものである。特に,労働と事故,保険法,メデ
ィア技術を介したデータ,並びに,同時代の言説における抑圧と欲望の現れへの
カフカの対応を,下記のキーワードを中心に議論する。
発表者は聞き手に,『役所文書』「年時報告書1915,1916,1917」の訳案と,プ
ラハ局が当時,事故の調書作成等に用いていた「書込み用フォーマット」等の統
計用資料を配布する。
a. メディア機能:役所の仕事に用いられたタイプライターと写真,事故と保険を
扱う統計学と確率論,労働現場で使用される機械といった,現実を別の形に変え
て処理を行う装置とその機能について
b. 個別端末:保険局・陸軍・商工組合といった保険利権に絡むもの,労働作業者の
手,傷痍兵の失われた手足,統計よって特定の危険度クラスに分類された工場と
いった,様々な立場からの現実への接近について
c. 伝送網と痕跡,ネットワーク機能:個人的な事故−保険統計学−カフカという
経路,戦線から流れ込む傷痍兵と神経症,役人仕事と文学執筆の関係といった,
此処と別の時と場をつなぐ情報や力の伝送について

参考:横山直生(早大文研博士課程在学):フランツ・カフカ『役所文書』における、抑圧と解放の技法
@早稲田ドイツ語学・文学会第20回研究発表会【2012年9月29日】
本発表はまず、カフカの 『役所文書』が2000ページにわたる膨大な資料としてまとめられた現在も、それは注目するに値しない完全に非文学的なものとして扱われている状況を報告し、その不幸な歴史について振り返る。その後、以下の二つの側面から、この資料の積極的な読み直しを行う。

1.誰かが法テクストの下で労働を管理し監視するということ。あるいは、その誰かが現実を象徴言語に還元し、言語において権力に合わせて改変するということ。それは「労働災害補償」という名の下で、匿名の言説の権力が実際的な生をソフトに抑圧するという、非常に見えづらい束縛の体制である。そして、有能な官吏としてのカフカはその尖兵であるといってよい。このような視点からテクストに潜在している、当時のカフカによる(カフカの『日記』は明確にあらゆる抑圧作用を退けているにもかかわらず生じる)抑圧作用を分析する。

2.カフカは幅広い労働分野での機械のエキスパートでもあったし、また当時発明されたばかりの電話とかパルログラフといったメディア装置にも鋭敏に反応している。このカフカのメディアへのまなざしは、彼の中のメディア転送システムとして働き、役所資料が現実の労働現場からの写真、図版、アンケート、請願書、あるいは足を使っての現地視察といった転送技術によって作られている限りで、このメディアへのまなざしは、テクストの内容においてのみならず、書字の技法の中にも効果を発揮する。それは、互いに離れた個別の労働同士を一つの伝送ケーブルの上で相互に参照させる。それは、ある肉体とその遠近法からしか成立しなかった労働を、複製に転写し、情報の交通網において匿名のデータ帯域として共有させる。そしてそれは、記号を意味という権力から解放し、事故という大きすぎる判断の一撃を、怪我という個別症例が発生する判断の過程へと拡散させる。こうしてそれは、彼の文学における逃走の試みの別分野での変奏といってよい。このある制限にとどめられていたものをその敷居の外へ解放する逃走プロセスは、彼の文学を貫いているものであるが、それはこの役人の抑圧的な言説の上でも同時に作用している。

これらのことをカフカの『役所文書』1907-1910年までの報告から分析する。

参考:http://hdl.handle.net/2065/30757

Title: 「テクストの枠を破壊する」ということ 明星聖子著 『新しいカフカ 編集が変えるテクスト』 慶應義塾大学出版会, 2002年
Authors: 横山 直生
Alternative: YOKOYAMA, Naoki
Publisher: 早稲田ドイツ語学・文学会編集委員会
Issue Date: 25-3月-2004
jtitle: Waseda Blatter
ISSN: 1340-3710

第1日 5月25日(土)ブース発表2(16:00〜17:30) H会場(106教室)
カフカ文学における異文化性とユダヤ性
林嵜 伸二
カフカ文学の中で,とりわけ1914〜1917年に頻出する異文化性(異国,異人,
異文化間の遭遇と関係)の描写は,その頃カフカを悩ましていたユダヤ人問題(自
らのユダヤ的アイデンティティーの問題)と密接な関係があるのではないか。こ
の関係についての研究ははまだ少ない。
その理由としては,シオニズムやユダヤ人の否定的イメージに過敏なドイツ国
内ではカフカ文学におけるユダヤ性(とりわけシオニズム像)についての研究も
あまり進まないという事情が一方であり,他方でドイツ国外ではカフカ文学の異
文化性の研究が,自国の成り立ちの問題に立ち入ることを研究者に強いる場合も
あって,避けられがちであったという事情がある。
しかし,「カフカ文学における異文化性とユダヤ性」についての包括的研究は,
カフカが描かなかった,そしてユダヤ民族との利害関係が比較的小さい地域(例
えば日本)でなら可能であると考える。加えて,近年になってドイツ内外で異文
化学やポストコロニアル批評の影響のもとに,カフカ文学の異文化性への注目が
増してきており,カフカ文学におけるユダヤ性についても,主にドイツ国外の研
究者によって精力的に進められつつある。
本発表では,このような近年のドイツ内外の研究状況の変化も踏まえ,上記テ
ーマについて今日日本でなし得る研究がもつ可能性を論じたい。また,日本では
どのように(カフカの)ユダヤ人問題にアプローチすべきかという問題について
も意見交換をしたい。

第 2 日 5 月 26 日(日)
口頭発表:文化・社会

1. 「書籍学講座」における研究と教育 — マインツ大学の事例を中心に —
竹岡健一
発表者は近年,ドイツにおける会員制の廉価書籍販売組織「ブッククラブ」に関する研究の過程で,書籍の製造・普及(販売)・受容を主な研究対象とする「書籍学(Buchwissenschaft)」の重要性を強く意識するに至り,ドイツの大学におけるこの学問分野の発展について,文献調査と現地調査を行った。本発表は,それらの成果に基づき,次のような内容を扱う。第一に,ドイツの大学における書籍学関連教育課程の現状を通して,この学問分野の成立時期,主な研究対象,方法論的特色,教育における職業実践的傾向の重視などを確認する。第二に,書籍学の独立性をめぐる議論に目を向け,書籍研究の長い伝統の中で新たにこの学問分野が登場した経緯とその問題点を跡づける。第三に,マインツ大学書籍学講座の事例を取り上げ,グーテンベルクとインキュナブラを主な研究対象とするマインツ市の寄付講座から書籍をめぐるアクチュアルな諸問題を扱うアカデミックな研究所への発展と,教育面での職業実践的な傾向の強まりを指摘する。第四に,書籍学講座を特徴づける職業実践的な教育の具体例として,実務家を交えた講義,図書館・文書館等での研修,教育用印刷所での実習,書籍見本市への参加,出版社文書館の活用などに言及する。以上の説明の後,書籍の経済的・物質的側面を重視する書籍学に関する知見を得ることがわが国における文学の研究と教育の発展にもたらす意義を述べ,結論とする。

「ドイツ家庭文庫」における本の装丁の重要性について
竹岡 健一 , タケオカ ケンイチ , TAKEOKA Kenichi

鹿児島大学法文学部紀要人文学科論集=Cultural science reports of Kagoshima University 76,
53-75, 2012-07-17

「ドイツ家庭文庫」における図書提供システムと「信念のきずな」のかかわりについて
竹岡 健一
九州ドイツ文学 (26), 27-55, 2012

ドイツ民族商業補助者連合(DHV)の教育活動 : その全体像と「民族主義的」特色(第2部)一般教育、青少年教育、および結論
竹岡 健一
人文学科論集 : 鹿児島大学法文学部紀要 -(74), 133-164, 2011-07


ドイツ民族商業補助者連合(DHV)の教育活動 : その全体像と「民族主義的」特色 補説 フィヒテ協会と雑誌『ドイツ民族性』
竹岡 健一
九州ドイツ文学 (25), 27-54, 2011

ドイツ民族商業補助者連合(DHV)の歴史と活動--労働組合活動と政治的動向とのかかわりを中心に
竹岡 健一
人文学科論集 (71), 155-173, 2010-02

2013-04-22

ロッテ「カフカくん」

デジタルトレンド2012:子ども泣きやむ不思議な動画 ロッテ「カフカくん」、YouTube再生50万回

毎日新聞 2012年10月25日 東京朝刊

 ロッテが、ソフトキャンディー「カフカ(袋)<極うまミルク味>」のプロモーションの一環として制作した"泣きやみ動画"「ふかふかかふかのうた」の再生回数が、動画共有サイト「YouTube」への公開後25日で50万回を突破した。

 動画は、同商品のターゲットである子どもがいる女性が抱える悩みの一つ「子どものグズリ泣き」を解消するために開発。ふかふかとした食感を表すキャラクター「カフカくん」のおでかけを描いており、公開前に0〜3歳の子ども52人を対象に実施した実証実験では、50人の子どもが泣きやむという結果が得られた。

 監修した日本音響研究所の鈴木松美所長は、泣きやみ効果がある理由として「子どもがなんにでも興味を示して反応する『定位反射』という現象を利用している」と解説している。

2013-04-05

『わたしの家 痕跡としての住まい』

わたしの家 痕跡としての住まい
販売価格:2,100円 (税込)
著者名 柏木博
発行 亜紀書房
判型 四六
ページ数 327
発行年月 2013.03
商品コード 39939

内容・概要
ベンヤミンは、近代化以降、「家」もしくは「室内」は、その人らしさを映し出す「痕跡」であるといっている。どんなに乱雑な部屋でも、あるいはある一つの趣味に統一された室内でも、最小限のスペースしかない家であろうとも、家からはそこに住まう人が見えてくる。最小限の家コルビュジエの南仏の小屋。書物を読み書くことを優先させた荷風の偏奇館。放浪作家、林芙美子の終の棲家・・。本書では、デザイナーや作家などの家を例にとりながら、人と家との関係について探っていく。
人にとって居場所、終え、部屋とはなんなのだろうか。人は家に何を求めるのだろうか。そのことを歴史的に捉え直したのが本書である。

■目次
 ・はじめに
1. 室内と痕跡
  室内の観相学
  最小限の住宅、ル・コルビュジエのカバノン
  身体を補足する装置、ル・コルビュジエの家具
  コラージュとしての室内、自己の表象
  箱・キャビネット・室内という書物
  ポーとソローの家、ポール・オースターの小説から
  いつも明かりを求め楽しんできた
2. 作家たちの家
  偏奇館の「断腸邸日常」、荷風の室内
  木兎の家、童謡作家・白秋の田舎家
  放浪ではなく終の棲家、林芙美子邸
  コスモスとしての花壇、宮沢賢治の庭
  主人のメトニミーとして、渋澤龍彦の部屋
  生活者の手ざわり、柳宗悦邸見学記
  女中タキの「部屋」、中島京子「小さいおうち」
3. 室内と安全
  「わたし」と「わたし」を隔てるもの
  鍵=内と外を認識させる装置
  防御・防護・遮断することをめぐって
  個人の居場所、室内・パソコンへの侵害
  街路の傍観者・監視者
 ・あとがき

2013-03-28

『男漱石を女が読む』『女々しい漱石、雄々しい鴎外』『夏目漱石を江戸から読む—新しい女と古い男』

男漱石を女が読む
著者: 渡邊 澄子
ISBN-13: 9784790715917
発売日: 2013-04-02
価格: ¥ 4,200(税込)
法的には男女平等社会となって久しいが、現在に至ってもなお女性差別が現前することを思い合わせると、夏目漱石の新しさが際立つ。女性の人権確立を切望する著者が
漱石文学を女の視点からジェンダー論として読み、漱石の平等主義を検証する。
単行本: 412ページ
出版社: 世界思想社 (2013/4/2)
ISBN-10: 4790715914
ISBN-13: 978-4790715917
発売日: 2013/4/2

女々しい漱石、雄々しい鴎外
渡辺澄子 著, 世界思想社, 1996.1, 255p
フェミニズムの視点から、日本文学史上に屹立する二人の作家を中心に、近代文学を読み直す。漱石の女性嫌悪の情は具体的に作品のどんなところから読みとれるのか。鴎外の女性観は…。時代と人間性を明らかにする。

目次
漱石の読みなおし
鴎外の読みなおし
現代作家を読む


夏目漱石を江戸から読む—新しい女と古い男 (中公新書)(小谷野 敦)
初版発行日1995/3/25
判型新書判
ページ数248ページ
定価777円(本体740円)
ISBNコードISBN978-4-12-101233-3

近代日本文学を代表する作家で、英文学者でもあった漱石。その作品は、英米文学の受容とともに論じられることが多かった。本書は漱石作品を、人形浄瑠璃や歌舞伎、浮世草子、人情本、読本のような江戸期の文学と西洋文学との交点に生まれたものとして捉え、比較文学の手法を用いて分析、・坊つちやん・の武士的精神が・虞美人草・以降、恋愛の世界と交錯し、同性関係と異性関係の絡み合いとして・こゝろ・が生まれる過程を考察する。

2013-03-27

高橋悠治「巣穴、塔、小舟」

磯崎新建築論集
四六判・上製カバー・平均300頁・月報付
装丁:桂川 潤
岩波書店

■構成 全8巻
半世紀にわたり建築界をリードし,現在なお国際的な場で活躍し続ける磯崎新.その巨大な存在感はどこから来るのか.建築家であると同時に,芸術家,批評家,思想家として活躍する磯崎新の,思想のエッセンスを分かりやすい形で凝縮する集大成的著作論集.次代を担う中堅気鋭の建築家,建築史家の協力を得て,常に新鮮な問題提起で挑発し続ける著者の思想の核心と魅力の秘密を浮き彫りにする.十数編の意欲的書下ろし論考と著者自身による各巻解題を収録.未来に継承さるべき,わが国建築界の思想的財産.

■ 全巻構成

第1巻 散種されたモダニズム
——「日本」という問題構制

(第2回/3月26日発売)
『磯崎新建築論集』月報2
田中純「《建築》へのノスタルジア」
伊東豊雄さ「磯崎新にとっての1969」
高橋悠治「巣穴、塔、小舟」

第2巻 記号の海に浮かぶ〈しま〉
——見えない都市

第3巻 手法論の射程
——形式の自動生成

第4巻 〈建築〉という基体
——デミウルゴモルフィスム

第5巻 「わ」の所在
——列島に交錯する他者の視線

第6巻 ユートピアはどこへ
——社会的制度としての建築家

第7巻 建築のキュレーションへ
——網目状権力と決定

第8巻 制作の現場
——プロジェクトの位相

2013-03-25

『〈女〉で読むドイツ文学』

〈女〉で読むドイツ文学

三浦淳 著

[目次]

第1章 エミーリアはなぜ死んだのか-レッシングの『エミーリア・ガロッティ』
第2章 ロッテは聖女か悪女か-ゲーテの『若きウェルテルの悩み』
第3章 叔母と甥との微妙な関係-リルケの『マルテの手記』
第4章 見えないヒロイン-ヨーゼフ・ロートの『酔いどれ聖者の伝説』

タイトル 〈女〉で読むドイツ文学
著者 三浦淳 著
著者標目 三浦, 淳, 1952-
著者標目 新潟大学大学院現代社会文化研究科
シリーズ名 ブックレット新潟大学 ; 18
出版地(国名コード) JP
出版地 新潟
出版社 新潟日報事業社
出版年 2003
大きさ、容量等 70p ; 21cm
ISBN 4888629889
価格 1000円
JP番号 20531715
シリーズ著者 新潟大学大学院現代社会文化研究科ブックレット新潟大学編集委員会 編
出版年月日等 2003.8
件名(キーワード) ドイツ文学--歴史--近代
件名(キーワード) 女性--文学上
NDLC KS334
NDC(9版) 940.26 : ドイツ文学
対象利用者 一般
資料の種別 図書
資料の種別 政府刊行物
資料の種別 官公庁刊行物
言語(ISO639-2形式) jpn : 日本語

2013-03-22

『セイレーンとしてのイゾルデ』

Isolde als Sirene セイレーンとしてのイゾルデ
キットラーの未刊行論文と彼による『トリスタン佯狂』のドイツ語訳にグンブレヒトの解説を付した書物。

Isolde als Sirene: Tristans Narrheit als Wahrheitsereignis. Mit einer
Übersetzung der "Folie Tristan" aus dem Altfranzösischen von Friedrich
Kittler
Friedrich Kittler (著, 翻訳), Hans Ulrich Gumbrecht (著)
Perfect: 107ページ
出版社: Fink Wilhelm Gmbh + Co.Kg (2012/10/4)
言語 ドイツ語, ドイツ語, ドイツ語
ISBN-10: 3770554469
ISBN-13: 978-3770554461
発売日: 2012/10/4
商品の寸法: 21.4 x 13.6 x 1.2 cm
Language Note: Prefatory matter and commentaries in German; text of
the poem in Old French with translation into German on opposite pages
Related Subjects:(6)

Tristan (Legendary character) -- Romances.
Tristan (Legendary character) in literature.
Iseult (Legendary character) in literature.
Arthurian romances -- History and criticism.
Folie Tristan d'Oxford -- Translations into Germa.
French language -- To 1300.

『冥府の建築家 = Gilbert Clavel:Architekt des Chthonischen : ジルベール・クラヴェル伝』

冥府の建築家 = Gilbert Clavel:Architekt des Chthonischen : ジルベール・クラヴェル伝
田中純 [著] みすず書房 2012

「わたしがいつかもはやこの世にいなくなったとき、わたしの霊は自分が一生涯のあいだ崇拝し、探し求めて、そのために自分のすべての信仰を捧げてきたもののうちに入り込んでゆく。朝はわたしとともに夕暮れとなり、暗闇は新しい一日の再生となるだろう。わたしは下げ潮となって深海を探索し、満ち潮の再来のためにひとつの波になろう」(1922年の草稿「変容」より)。
ジルベール・クラヴェル(1883-1927)。幼少期の結核が元で宿痾をかかえたジルベールは、イタリア未来派の演劇活動、『自殺協会』と題された幻想小説、そして南イタリアはポジターノの岩礁を爆破し穿孔して建てた洞窟住居と、セイレーンの歌声が響く神話の古層を求めて、44年の短い生涯を駆けぬけた。

「エジプト旅行によって古典古代よりもさらに古い古代に触れ、バレエ・リュスや未来派の経験を経て芸術の前衛を知ったクラヴェルは、塔を拠点に岩窟住居を造りつづけることにより、ポジターノの岩壁に暴力的に介入しながら、風雨に晒される、自然の四大との緊密な交感の場こそを切り開こうとした。(…)頽廃の美を食い破って〈岩石妄想〉が噴出したのである。そこには通底する〈もの狂い〉があった。クラヴェルの建築は、クラヴェルの魂であり霊であるような"もの"を包み込んでいる」。

バーゼル、マッジャ、ローマ、ポジターノなど、スイスとイタリアの各地に分散した遺稿や資料を可能なかぎりすべて調査して、この知られざる特異な作家/建築家の生涯と妄執を辿り直した、世界でも初めての評伝である。

■田中純
たなか・じゅん
1960年、宮城県仙台市に生まれる。1991年、東京大学大学院総合文化研究科(地域文化研究専攻)修士課程修了。2001年、東京大学より博士(学術)の学位授与。専門は思想史・表象文化論。東京大学教授。著書に『残像のなかの建築──モダニズムの〈終わり〉に』(未來社、1995)『都市表象分析I』(INAX出版、2000)『ミース・ファン・デル・ローエの戦場』(彰国社、2000)『アビ・ヴァールブルク
記憶の迷宮』(青土社、2001、第24回サントリー学芸賞)『死者たちの都市へ』(青土社、2004)『都市の詩学──場所の記憶と徴候』(東京大学出版会、2007、第58回芸術選奨文部科学大臣新人賞)『政治の美学──権力と表象』(東京大学出版会、2008、第63回毎日出版文化賞)『イメージの自然史──天使から貝殻まで』(羽鳥書店、2010)『建築のエロティシズム──世紀転換期ヴィーンにおける装飾の運命』(平凡社、2011)『ムネモシュネ・アトラス』(共著、ありな書房、2012)ほか。2010年、第32回フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞。

■目次




I メタモルフォーゼ
第一章 死の舞踏(1902-07年)
骸(むくろ)としての肉体
「教会開基祭における死」
「死の表現に関するノート」
『中欧月刊誌』の創刊と挫折
イタリアへ

第二章 放蕩者たちの島(1907-11年)
カプリ島滞在の開始
フェルセン伯爵とヴィラ・リュシス
ミトラス教の祭儀
アフリカ、アーシア

アーシア断章──日記と手紙から…

第三章 オリエントへ(1911-14年)
病の哲学、ポンペイ、そして、エジプトへ
エジプト旅行
「わが領土」への帰還
エジプト再訪 1
エジプト再訪 2

II アヴァンギャルド
第四章 エキセントリック(1914-17年)
世界大戦下イタリアのアウトサイダー
『自殺協会』

第五章 未来派(1917-18年)
バレエ・リュスの衝撃、デペロとの出会い
イタリア語版『自殺協会』
「造形的バレエ」の上演

第六章 メタフィジカ(1918-20年)
『造形的価値』への寄稿 1──「ピカソとキュビスム」
ロベルト・ロンギによる展評
『造形的価値』への寄稿 2──「造形的演劇」
『造形的価値』への寄稿 3──「エジプトの表現」

III ミステリウム
第七章 塔と洞窟(1920-23年)
セイレーンの群島
「欠けたピラミッド」の改修
カプリ島景観会議
洞窟住居の着工
洞窟住居の拡張

第八章 友と敵(1923-25年)
フェルセンの死
家宅捜索の顛末
大地の暴力のもとで
「世界で最も奇妙な家」
友人たちの来訪

第九章 睾丸と卵(1925-27年)
巨大洞窟の発見
「岩石妄想」
ダイモーンに駆られて
肉体と建築の複視
最後の手紙
卵母セイレーン
半陰陽の空間
死シテノチ(postmortem)
二つの鍵


ジルベール・クラヴェル略年譜

「幻視のスイス」展カタログ所収の書簡一覧
書誌
図版一覧
人名/神名/作品名 索引


■編集者からひとこと
——すべてはハラルト・ゼーマンhttp://en.wikipedia.org/wiki/Harald_Szeemannによる「幻視のスイス」展(1992年、デュッセルドルフ)に始まります。
その当時ドイツに留学していた田中純さんは、「ドクメンタ」や「総合芸術作品への志向」展などで知られるユニークなキュレーターであったゼーマンに惹かれて、この展覧会に足を運びました。それから20年、あたかも2005年に亡くなったゼーマンの妄執(オブセッション)が田中さんに憑依したかのように、本書の企図はゆっくりと醸成されていったのです。

「幻視のスイス」展のカタログを見てみると、アルノルト・ベックリンやパウル・クレーのような著名な画家から、ジルベール・クラヴェルのような無名の作家まで、総勢55名のスイスにゆかりのあるアーティストが取り上げられていたことがわかります。それにしても、出展者55名の簡単な紹介にくらべて、巻末の30ページにもおよぶ「ジルベール・クラヴェル
手紙でたどるその人生の軌跡」という章の構成が異様です。実際の展覧会がどうであったかはともかく、少なくともこのカタログは、まるでクラヴェルその人を世に知らしめるために作られたかのようです。

さて、そのクラヴェルとは何者か。なぜクラヴェルなのか。そんな本書の企図については、田中純さんが本書に先行して『SITE ZERO/ZERO
SITE』3号(2010年)に発表した、ほとんど本書のイントロダクションとも言える以下の論考をご覧ください。

http://before-and-afterimages.jp/news2009/SirenTanaka01.pdf

この世界初の評伝を編集し終えて、思うことが二つあります。ひとつは、生前に『自殺協会』1冊を自費出版したにすぎない無名作家、そして洞窟住居とはいえあくまで私邸をセルフ・ビルドしたにすぎない素人建築家の、日記や手紙や遺稿までが、公文書館や財団図書室にきちんと保管されているという、ヨーロッパのアーカイヴの底知れぬ豊かさ。

もうひとつは、クラヴェルのたゆまぬ創作を突き動かしたイメージの原型です。44年という短い人生のほぼ後半生を、岩壁に通路を穿ち、居室を刳りぬくことに費やしたとなれば、やはりこの人はどうみても奇人変人でしょう。33年をかけてたった一人で理想の宮殿を建てた郵便配達夫フェルディナン・シュヴァルや、誰にも知られることなく『非現実の王国で』と呼ばれる物語や絵を書きつづけたヘンリー・ダーガーが思い浮かびます。ではクラヴェルは、シュヴァルやダーガーのようないわゆるアウトサイダーなのでしょうか。『自殺協会』や洞窟住居はひとつの症例で、病跡学の対象となりうるものなのでしょうか。

どうもそうではない気がします。クラヴェルを捉えた神話的なオブセッションは、あくまで個人のうちに完結した徴候というよりは、はるか古代から人類が受け継いできた、精神のかたちのように思われるのです。本書を通読したあと、あなたにもクラヴェルのオブセッションが憑依するとしたら……、さああなたはつぎに何をするのでしょうか。

2013-03-21

ジルベール・クラヴェルとカフカの通底性by田中純

クラヴェルはカフカやリルケのような独自の文体をもった作家ではなくて異文化のコミュニケーターのような人物、といった指摘もあって、後段についてはそうだろうと思う。

ただ、クラヴェルについては、『自殺協会』のような刊行されたテクストよりも、日記や手紙のほうが大事。さらに言えば、洞窟住居の建造などと一体化したテクスト・身体・建築との相互作用こそが。この点でのカフカとの通底性については拙著(冥府の建築家
= Gilbert Clavel:Architekt des Chthonischen : ジルベール・クラヴェル伝
田中純 [著] みすず書房 2012 )にも書いた。

Renatus Zürcher氏の映像作品※では不鮮明で暗示的な映像とともに『自殺協会』のテクスト(ドイツ語版)が朗読されていた。「テクストに力があるので、それを聴いてイメージを膨らませてほしい」とは作者の弁。映像は解説ではなく、そのきっかけであると。
※Renatus Zürcher氏の「8つ川(Achterstrom)」という作品を見に行く。クラヴェルの小説『自殺協会』を元にしたもの。アーティスト本人からの解説も。クラヴェルの洞窟を海から撮影した映像が無気味で良かった。


クラヴェルの先駆的な研究で知られる人物や発行元の社主でもある美術史家とアーティストの3人による企画としてクラヴェルの著作集が企画されている由。2017年までの刊行を目指すとか。

Renatus Zürcher氏の展覧会に際して発行されたアーティストブックは、ほとんど白紙の分厚い小冊子のところどころにテクストが差し挟まれているという変わった造り。これは将来予定している、クラヴェルの一巻本著作集(全集?)を先取りした形態らしい。すでに手紙や日記などの調査を始めているとか。

クラカウアーのクラヴェル論を読んでも感じるのは、根本的な関心対象が彼の城に宿るある種の無気味さ、黄泉の国の風のようなものであること。

2013-03-19

「入院手続きは本来、担当医が入院申し込みの書類をファイルにとじて、書類を別の医師が見て入院手続きを始めるが、このケースは書類が残っていなかった」

 名古屋大病院(名古屋市)は2013年3月13日、二〇〇八年に口の中にがんが見つかった愛知県の三十代患者に対し、手術が必要なのに三年以上放置し、その後に死亡したことを明らかにした。外部専門家らでつくる調査委員会は「予定通り手術が行われれば完治した可能性が高い」と指摘した。

 病院によると、患者は〇八年三月に受診し、がんの疑いが高いと診断された。担当医は手術の必要性を説明し、患者は入院と手術を申し込んだ。病院は「入院日が決まったら連絡する」と伝えていたが、院内で入院申込書を紛失し、その後患者に連絡はなかった。

 患者自身は、自覚症状がなかったことなどから、ただちに手術が必要ではないと受け止め、再受診することはなかった。一一年四月に痛みが悪化して再受診。この時に初めて、手術が行われていないことが発覚した。

 病院はただちに手術などをしたが、同年八月に肺への転移が拡大し、昨年四月に呼吸不全で死亡した。

 調査委は「連絡体制や、情報管理体制の不備による事務手続きのミスが原因」と指摘。病院はその後、入院予約システムの電子化と複数の部署で共有する仕組みをつくった。病院は患者の遺族に謝罪し、和解している。
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名古屋大学医学部付属病院で、がんの手術が必要な患者に入院予定日の連絡をしないまま3年間放置し、患者が死亡していたことがわかった。
名大病院によると、死亡した愛知県内の30代の患者は、2008年3月、口腔(こうくう)内にがんの疑いがあると診断され、入院・手術の手続きに入ったものの、その後、病院側が患者に入院予定日などを一切連絡しなかった。
2011年に患者が病院に訪れた際に、放置していたことが発覚し、すぐに手術が行われたが、患者は2012年4月に死亡した。
病院内の連絡態勢に不備があったことが原因で、早期の手術で治っていた可能性が極めて高かったという。
名大病院は、「申し訳ない気持ちでいっぱい」だとコメントしている。
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名古屋大病院(名古屋市)は2013年3月13日、外来で口腔内のがんの疑いと診断し、手術が決まっていた愛知県の30代患者に2008年から約3年間、入院の連絡をしないまま放置していたことを明らかにした。患者はその後手術を受けたが、がんが肺に転移し、翌年に呼吸不全で死亡した。

 名大病院は同日、連絡をしなかった原因に関し、第三者の調査委員会の検証結果に基づき、外来の担当医が連絡に必要な書類を紛失した可能性が高いと発表。調査委は、手術が当初の予定通り行われていれば、がんは完治していた可能性が高いと指摘した。

 松尾清一院長は記者会見で「患者と家族には謝罪した。申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と話した。遺族とは示談が成立したという。

 名大病院によると、患者は08年3月、歯科口腔外科で外来受診し、患部の部分切除が必要との説明を受けた。検査で初期のがんの疑いが濃かったものの、担当医は「グレーゾーン」などと説明。

 患者は手術が必要とは受け取らず、連絡もなかったことから、名大病院を受診する前に通院していた別のクリニックでの治療を続けた。しかし口の中の痛みが悪化し、11年4月に名大病院を訪れて放置が発覚した。

 病院はすぐに手術を実施。患者は経過が良好で同年6月に一時退院したが、約2カ月後に肺への転移が見つかり、12年4月に死亡した。

 名大病院は入院予定の患者を電子カルテで把握するなど、再発防止策をとったという。
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名古屋大病院(名古屋市)は2013年3月13日、口腔(こうくう)内がんの疑いと診断し、手術が必要とされた愛知県の30代患者を入院手続きのミスで約3年間放置した結果、がんが肺へ転移し呼吸不全で死亡したと発表した。初診時は初期がんだったため、予定通りに手術していれば根治していた可能性がある。
 松尾清一病院長は記者会見し、「亡くなられた患者さんには心から哀悼の意を表します」と謝罪。遺族には賠償金を支払うという。
 名大によると、患者は2008年3月、かかりつけ医の紹介で同病院を受診した。担当医はがんの疑いがあると診断。手術の必要性も説明し、「入院日が決まったらまた連絡する」と話したが、連絡していなかった。入院手続き書類の一部を担当医が紛失し、患者のことを失念していた可能性が高いという。
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名古屋大病院:がん3年放置 30代患者、肺に転移し死亡

毎日新聞 2013年03月13日 12時22分(最終更新 03月13日 18時03分)

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)は13日、口腔(こうくう)内のがんと診断して手術をすると決めていた愛知県の30代患者に、08年から3年間入院の連絡をしないまま放置し、患者が死亡したと発表した。病院が賠償金を支払うことで遺族と示談が成立しており、記者会見した松尾清一病院長は「ご遺族に心より謝罪する。病院全体のシステムを見直す」と話した。

 病院によると、患者は初期のがんで、予定通り手術をしていれば完治していたという。

 患者は08年3月にかかりつけ医からの紹介で名大病院を受診。担当医はがんの疑いと診断し、手術をすることを説明して「入院日が決まったら連絡する」と伝えたが、その後連絡していなかった。

 患者は連絡がないまま、かかりつけ医で治療を受けたが、病状が悪化したため、11年4月に名大病院を再び受診した。その際に入院手続きがとられていないことが発覚し、翌月に手術を受けた。だが、がんの肺転移による呼吸不全のため12年4月に死亡した。

 入院手続きは本来、担当医が入院申し込みの書類をファイルにとじて、書類を別の医師が見て入院手続きを始めるが、このケースは書類が残っていなかったという。担当医は当時の経緯について病院に「記憶にない」と話しているという。【岡村恵子】
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2013-03-11

ペーター=アンドレ・アルト著/瀬川 裕司 訳『カフカと映画』

ペーター=アンドレ・アルト著/瀬川 裕司 訳
カフカと映画
税込価格 : 3570円 (本体価格3400円)
ISBN : 978-4-560-08274-4
ジャンル : 海外文学
体裁 : 四六判 上製 254頁
刊行年月 : 2013-03
内容 : 映画がなければカフカは生まれなかった
カフカは映画が好きだった。「イメージが動く」などの手法が彼の作品に応用されている。『城』と《吸血鬼ノスフェラトゥ》の共通点など、表現をめぐる刺激的な関係が明らかになる。

Kafka und der Film Über kinematographisches Erzählen
Peter-André Alt
ハードカバー: 237ページ
出版社: Beck C. H. (2009/03)
言語 ドイツ語, ドイツ語, ドイツ語
ISBN-10: 3406587488
ISBN-13: 978-3406587481
発売日: 2009/03

目次
Vorspann

Ästhetik dynamischer Bilder

Einübung des Kino-Blicks
(Betrachtung)

Verkehr und Film
(Kinder auf der Landstraße,
Der Verschollene, Das Urteil)

Verfolgungsjagden
(Der Verschollene)

Doppelgänger
(Der Proceß)

Das Lichtspieltheater der Gebärden
(Ein Brudermord)

Stereoskopisches Sehen
(Der Jäger Gracchus)

Ein Landvermesser in Transsylvanien
(Das Schloß)

Abspann

Anmerkungen

Bildquellen

Personenregister
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カフカ、映画に行く
KAFKA GEHT INS KINO
ハンス・ツィシュラー [著] ; 瀬川裕司 訳, みすず書房, 1998.7, 201p
A5変型判 タテ200mm×ヨコ148mm/208頁
定価 2,625円(本体2,500円)
ISBN 4-622-04707-1 C1098
1998年7月31日発行

目次
観客
弁士
悲しき文通者、あるいは散歩者
皇帝の名前
またしてもこの白い奴隷女
破線で描かれたパリ、もしくはモナリザの盗難
幕間
拉致されて、あるいはリュツォヴの猟人団
任意の例、もしくは分身
見えない観光名所、もしくは男泣かせの女
〔ほか〕

〈日記はまったくつけていません。なぜ日記をつけなければならないのかわからないのです。僕を心の奥深くで感動させるようなものに出会うことがない。それは、昨日のヴェローナのキネマトグラフの劇場でのように僕が泣いてしまうような場合も同じです。人間関係を楽しむことならできますが、それを体験するということがありません。〉(フェリーツェへの手紙
1913年10月29日)

「カフカの早い時期における日記や手紙のなかに、映画に言及されている箇所があることを初めて知ったのは1978年、カフカを題材とするテレビ映画を撮影していたときのことであった。映画への言及は広い範囲に拡散しており、ひどく謎めいているものも少なくない。その文章の調子は、映画を観に行くということに関して彼が抱いていた激しい感情を示唆するものであった。以来、私はこのテーマに本腰を入れて取り組むようになった。」

カフカは大の映画ファンだった。映画を注意ぶかく観察し、つねに〈書くこと〉との関係で考えつづけていた。さらに人生の無意味さを感じつつ「意識を失うほどの孤独」に陥るたびに、彼は映画館に通っていた。

カフカは、いつ・どこで・何を観たか。「白い奴隷女」「婿殿には公務員を」「男泣かせの女」「シオンへの帰還」等々、作家を魅了した映画の一つ一つを追跡し、斬新な手法でその文学と人物にアプローチした待望の書。
「カフカ、映画に行く」の著訳者:

ハンス・ツィシュラー
Hanns Zischler
1947年ニュルンベルクに生まれる。1966年にインゴールシュタットで大学入学資格を取得後、ミュンヒェン大学およびベルリン自由大学で文芸学・哲学を学ぶ。映画・舞台での俳優活動のほか、演出家、脚本家、プロデューサー、エッセイストとさまざまな顔を持つ才人として知られる。とりわけジャック・デリダの著作をはじめとするフランスおよびイギリスの現代思想の翻訳紹介は高い評価を受けており、〈ドイツでもっとも知的な俳優〉とも呼ばれている。著書としては"Im
Wortlaut"(1997、Alphaus)、"You Can't Judge A Book by its
Cover"(1995、Merve Verlag)、"Tagesreisen"(1993、Merve
Verlag)ほかがあり、代表的な映画出演作としては『新ドイツ零年』(1991、ジャン=リュック・ゴダール)『別れの朝』(1983、ローベルト・ファン・アカレン)『さすらい』(1975、ヴィム・ヴェンダース監督)等がある。

瀬川裕司
せがわ・ゆうじ
1957年広島市に生まれる。1982年東京大学文学部卒業。1989年東京大学大学院人文科学研究科博士課程退学。1987-88年ベルリン自由大学留学。横浜国立大学助教授を経て、現在は明治大学助教授。共著書に『現代映画作家を知る17の方法』(1997、フィルムアート社)『ドイツ・ニューシネマを読む』(1992、フィルムアート社)、訳書にヘルムート・カラゼク『ビリー・ワイルダー
自作自伝』(1996、文藝春秋)『ドイツ映画の誕生』(1995、山科書店、共訳)、ヴィム・ヴェンダース『夢の視線』(1994、河出書房新社)、レナーテ・ザイデル『ロミー・シュナイター』(1991、平凡社)ほかがある。

2013-02-27

『ローマ測量師記録』の図版を一通り見たが、アガンベンの言うcastrumの図像は特定できない。

しかし、いずれにしても、奇妙に離散的な建築物の配置が夢のなかの風景のようでもある。

カストラ(ラテン語: castra、複数形)およびカストルム(ラテン語:
castrum、単数形)とは、古代ローマにおいて軍事防衛拠点または野営地として使用された場所または建設された建物群を指す。

カフカ隠喩の森から共同体へ : 権力=〈神〉への反逆『城』論

カフカ隠喩の森から共同体へ : 権力=〈神〉への反逆『城』論
三瓶憲彦 著, 松籟社, 2012.3, 338p


[目次]

第1章 "到着"の象徴性
第2章 "権力"との最初の闘い
第3章 リアリズムと反リアリズムの相克
第4章 "待つ"モティーフの背理
第5章 "権力"とその変成作用
第6章 使者バルナバスと"城"=権力機構
第7章 沈黙する批判精神"アマーリア"
第8章 アマーリア、生まれかかった"神話"
第9章 真夜中の対話
第10章 乱舞する隠喩
第11章 ペピーとの対話
終章 "放棄"の内的必然性

その演説にあのカフカも大笑いしたという伝説のユーモア・ノンフィクション小説

プラハ冗談党レポート : 法の枠内における穏健なる進歩の党の政治的・社会的歴史
ハシェク ヤロスラフ【著】;栗栖 継【訳】, トランスビュー, 2012.6.5, 488p


国家権力に笑いで一泡吹かせたい!プラハの居酒屋に、作家、アナーキスト、建築家、画家、自称革命家などが集い新党を結成、政治維新を企てた。つきまとう私服刑事を出し抜き、密告者をオチョくり、徹底取材で対立候補をコキおろす。その演説にあのカフカも大笑いしたという伝説のユーモア・ノンフィクション小説を、名訳者・栗栖継が八年の歳月をかけてついに完成。

[目次]

第1部 穏健なる進歩の党の年代記より(初期の綱領
オポチェンスキーとクリメシュ ほか)
第2部 穏健なる進歩の党の三名の伝道の旅から(チェコの批評家フランティシェク・セカニナ教授
画家のヤロスラフ・クビーン ほか)
第3部 党は選挙戦に打って出る(最近の選挙活動での法の枠内における穏健なる進歩の党のマニフェスト
偽造された、または腐敗した食料品について ほか)
第4部 法の枠内における穏健なる進歩の党のスパイ事件(「チェスケー・スロヴォ」編集局の一日
「チェスケー・スロヴォ」編集長イージー・ピフル ほか)

近代文学の中の"放蕩息子"-ジイド・リルケ・カフカ

《放蕩息子》の精神史 : イエスのたとえを読む
宮田光雄 著, 新教出版社, 2012.7, 191p


福音書に記されたイエスのたとえの中でも最もよく知られている"放蕩息子"。このたとえは古代以来数多くの人々のたましいに刺激を与え、様々な解釈と造形を生み出してきた。いま危機と混迷の時代を生きる私たちは、このたとえから何を読みとることができるのか。豊かな学殖と深い洞察をもって解釈史をたどりながら、神と人間のドラマを読み解く。


[目次]

第1部 キリスト教美術の中の"放蕩息子"(中世教会美術
宗教改革の時代の"放蕩息子"-デューラーとヒエロニムス・ボス
レンブラントの"放蕩息子"
ロダン以後バルラッハまで
現代美術の中の"放蕩息子")
第2部 "放蕩息子"の精神史("放蕩息子"のたとえを読む
"放蕩息子"の精神史-古代教会から宗教改革まで
近代文学の中の"放蕩息子"-ジイド・リルケ・カフカ
"放蕩息子"の精神分析学的解釈-自己実現と影
"放蕩息子"と現代文明-明日への希望)

カフカのアイデンティティなき人間(フィリッポ・コスタ)

弱い思考
ヴァッティモ ジャンニ;ロヴァッティ ピエル・アルド【編著】;上村 忠男;山田 忠彰;金山 準;土肥 秀行【訳】, 法政大学出版局,
2012.8.15, 374p


暴力性をともなう形而上学との決別。エーコなど、現代イタリアの思想家11名による論集。世界的に影響を与えた哲学アンソロジー。


[目次]

弁証法、差異、弱い思考(ジャンニ・ヴァッティモ)
経験の過程でのさまざまな変容(ピエル・アルド・ロヴァッティ)
反ポルフュリオス(ウンベルト・エーコ)
現象を称えて(ジャンニ・カルキア)
弱さの倫理-シモーヌ・ヴェーユとニヒリズム(アレッサンドロ・ダル・ラーゴ)
「懐疑派」の衰朽(マウリツィオ・フェッラーリス)
ハイデガーにおけるlucus a(non)lucendoとしての開かれ=空き地(レオナルド・アモローゾ)
ウィトゲンシュタインと空回りする車輪(ディエーゴ・マルコーニ)
雪国に「城」が静かにあらわれるとき(ジャンピエロ・コモッリ)
カフカのアイデンティティなき人間(フィリッポ・コスタ)
社会の基盤および計画の欠如(フランコ・クレスピ)

プラハの城と言えば、カフカの『城』が連想されるけれど、ちょうどアガンベンの『裸性』には、19世紀半ばに刊行された『ローマ測量師記録』にあるカストルムの図像が『城』の描写と驚くほど似かよっているという記述があった。

プラハの城と言えば、カフカの『城』が連想されるけれど、ちょうどアガンベンの『裸性』には、19世紀半ばに刊行された『ローマ測量師記録』にあるカストルムの図像が『城』の描写と驚くほど似かよっているという記述があった。

裸性
ジョルジョ・アガンベン 著 ; 岡田温司, 栗原俊秀 訳, 平凡社, 2012.5, 221p
ヌディタ、すなわち裸性=剥き出しとは、セクシュアリティに関わるものである以上に、われわれが無防備であること、さらされてあることに関係している。原罪を一種の自己誣告とみる独創的なカフカ論をはじめ、原罪によって開かれた潜勢力としての「認識の可能性」がヌディタの核心にあることを喝破した好著。シリーズ第一弾。

[目次]

創造と救済
同時代人とは何か?
K
亡霊にかこまれて生きることの意義と不便さ
しないでいられることについて
ペルソナなきアイデンティティ
裸性
天の栄光に浴した肉体
牛のごとき空腹-安息日、祭日、無為をめぐる考察
世界の歴史の最終章

近刊(ドイツ語)『ヴァルター・ベンヤミンにおける響きと音楽』

Tobias Robert Klein
in Verbindung mit Asmus Trautsch
Klang und Musik bei Walter Benjamin
1. Aufl. 2013, 225 Seiten, 22 s/w Abb., 2 CD-Beilagen, Festeinband
ISBN: 978-3-7705-5343-3
EUR 29.90

Informationen zum Buch

Im Gegensatz zu Theodor W. Adorno wird Walter Benjamin kaum mit Musik
in Verbindung gebracht. Dabei liegt in Benjamins Verhältnis zur Musik
ein neuer Schlüssel zu seinem Denken.
Obwohl in seinen Schriften durchaus von Musik, Klang und Tönen die
Rede ist, sind diese in der Rezeption seiner Schriften bislang kaum
beachtet worden. Es wird nun erstmals systematisch den kultur- und
medienhistorischen Zusammenhängen von Benjamins akustischen Motiven
nachgegangen. Zudem wird ihre ästhetische Relevanz für die
gegenwärtige Produktion von Klängen reflektiert. Darüber hinaus
dokumentiert Klang und Musik bei Walter Benjamin das Projekt einer
Gruppe israelischer und deutscher Komponisten, die sich mit den
Erinnerungsformen der Berliner Kindheit, Benjamins Radioarbeiten oder
seinen Reflexionen zu Geschichte, Sprache und Übersetzung befasst
haben.

INHALTSVERZEICHNIS

TOBIAS ROBERT KLEIN
Aimez-vous Berg? Walter Benjamins akustisches »Betroffensein«. . . . . . . 7
KLANGPANORAMA: ERINNERUNG, LEIBLICHKEIT UND
DER RHYTHMUS DER STÄDTE
ASMUS TRAUTSCH
Die abgelauschte Stadt und der Rhythmus des Glücks.
Über das Musikalische in Benjamins Denken . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . 17
UTA KORNMEIER
Akustisches in der Berliner Kindheit um neunzehnhundert . . . . . . . . . . . 47
ELI FRIEDLANDER
Farben und Laute in der Berliner Kindheit um neunzehnhundert . . . . . . 55
»DER REST DES TRAUERSPIELS«.
KLAGE UND FEUERSCHRIFT
ELIO MATASSI
Trauerspiel und Oper bei Walter Benjamin . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . 69
BURKHARD MEISCHEIN
Zeichen-Deutungen. Walter Benjamin
und Johann Wilhelm Ritter. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . 75
SIGRID WEIGEL
Die Geburt der Musik aus der Klage.
Zum Zusammenhang von Trauer und Musik
in Benjamins musiktheoretischen Thesen . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . 85
VON OFFENBACH ZUR PASSAGENWELT.
BÜHNE, BILD, STIMME
MATTHIAS NÖTHER
Operette als Vorhang. Benjamin beobachtet
Karl Kraus' Offenbach-Vorlesungen . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . 97
ADRIAN DAUB
Erotische Akustik. Walter Benjamin geht (nicht) zur Oper . . . . . . . . . . 105
TOBIAS ROBERT KLEIN
»Musik in Passagen«. Walter Benjamin und die Musik
in der Hauptstadt des 19. Jahrhunderts . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . 117
PRODUKTION UND REPRODUZIERBARKEIT.
BENJAMIN ALS ÄSTHETISCHE HERAUSFORDERUNG
SABINE SCHILLER-LERG
Ernst Schoen vertont sechs Gedichte
von Christoph Friedrich Heinle. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . 131
WOLFRAM ETTE
Benjamins Reproduktionsaufsatz und die Musik . . . . . . . . . . . . .
. . . . . 143
RICHARD KLEIN
Noch einmal: bewusstmachende oder rettende Kritik.
Eine musikphilosophische Lektüre des Disputs
zwischen Benjamin und Adorno . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . 149
DANIELLE COHEN-LEVINAS
Die Aufgabe des Musikers. Schönberg und die Wunder
des Lumpensammlers . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . 167
MÁRIO VIEIRA DE CARVALHO
Idiom, Trauerspiel, Dialektik des Hörens.
Zur Benjamin-Rezeption im Werk Luigi Nonos . . . . . . . . . . . . . .
. . . . 179
DENKKLÄNGE. NEUE ENSEMBLEWERKE AUS
ISRAEL UND DEUTSCHLAND ZU WALTER BENJAMINS
BERLINER KINDHEIT UM NEUNZEHNHUNDERT
ASMUS TRAUTSCH
Das Projekt DenkKlänge für Walter Benjamin 2010 . . . . . . . . . . .
. . . . . 203
SARAH NEMTSOV
Verlassene Orte . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . 205
GILAD RABINOVITCH
Kleines harmonisches Labyrinth IIb . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . 207
ERES HOLZ
Trällernde Erinnerung . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . 209
YOAV PASOVSKY
Fieber . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . 211
TOM ROJO POLLER
Radau um K.. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . 213
PENG YIN
Die Mummerehlen . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . 215
HEVER PERELMUTER
Realität als Traum . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . 217
ASMUS TRAUTSCH
Das Wachsen im Nachhall. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . 219
AMIT GILUTZ
Safa Brura . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . 221
Abbildungsverzeichnis . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . 223
DenkKlänge für Walter Benjamin – Angaben zu den CDs. . . . . . . . . . . . 225
Live-Mitschnitt des Hessischen Rundfunks (hr2)
vom 20.06.2010 aus dem Kleinen Saal der Hochschule
für Musik und Darstellende Kunst, Frankfurt a. M.

2013-02-26

『ドイツ児童書の社会史 ほらばなしはいかにして啓蒙の時代を生き延びたか』

ドイツ児童書の社会史 ほらばなしはいかにして啓蒙の時代を生き延びたか

出版社 明石書店
著者
佐藤茂樹
価格 5,040円(税込)
発売日 2013年1月31日
ページ数 321P
ISBN 9784750337524
内容注記
親族と寝食を共にする徒弟を含んだ大家族の時代から父母を中心にした職住分離の小家族時代へ。18〜19世紀にドイツ社会が大きく変化するなかで子どもたちに提供される読み物も独自の世界を作り出した。子どもの本は、啓蒙の時代を経てどう変わっていったのか。

【目次】
プロローグ 児童文学の社会史に寄せてーヨーアヒム・ハインリヒ・カンペ『ロビンソン・ジュニア』の例から
第1部 "父"たちの児童書(ほらばなしはいかにして啓蒙の時代を生き延びたかーヨーハン・ゴットリープ・シュンメル「抵当遊び」から
『かにの本』再考 ほか)
第2部 メルヘンとそのコンテクスト(オーストリア最初のメルヘン集まで
フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケーの『ウンディーネ』を読む ほか)
第3部 もうひとりのグリム(グリム対グリムス
オランダ語版選集に紛れ込んだもうひとりのグリムー『ヴァイオリンを抱えた小男フリーダーの愉快な話』 ほか)
第4部 十八世紀ドイツの子どもの本(ヨーハン・ゴッドリープ・シュンメル『子どもの遊びと会話』
ヨーアヒム・ハインリヒ・カンペ『ロビンソン・ジュニア』 ほか)

【著者情報】
佐藤茂樹(サトウシゲキ)
1952年生まれ。慶應義塾大学文学研究科博士課程単位取得退学(ドイツ文学)。現在、関東学院大学文学部比較文化学科教授
氏 名 佐藤 茂樹 (サトウ シゲキ)
所 属 文学部比較文化学科
学部担当科目 ドイツ語、ドイツ研究入門、ドイツの言語文化、
ドイツの文化と社会、ゼミナール、基礎ゼミナール
専門分野 近代ドイツ文学(特に口頭伝承が書物による伝承に変化・変容していく過程や児童書の成立・発展の歴史など)
最終学歴 慶應義塾大学文学研究科修士課程
研究テーマ 伝承文芸の社会史、児童書の社会史
研究テーマの説明 口頭の伝承が書物に取り入れられて、新たな受容層に浸透し、新たな伝承の系譜を形成していく過程に特に関心を持っています。
主要業績 ・「新児童の友総目次」(人文研所報、2003)
・「等身大の異文化コミュニケーション」(明石書店、2004)
・「18世紀ドイツの子どもの本(1)〜(6)」(幼児の教育、2005)
・「メルヘンとそのコンテクスト」(文学部紀要、2005)
・「ウィーンの都市形成と民間伝承」(人文研所報、2006)
メッセージ 最近は、いつも誰かと一緒にいないと不安な人が増えています。大学生になったら、他人に振り回される生活をやめて、自分の人生を邁進してください。安易にもたれあう仲間を作るくらいなら、友だちなんかいなくともかまわないくらいの強い気持ちを持って、かけがえのない自分の人生設計をしてください。
ゼミナール ドイツ語圏を中心にした伝承の比較研究が課題です。伝承の内容は、一方では、地域・時代の生活世界の現状に応じて「屈折」し、変容します。また一方では、それにもかかわらず、保持され続ける要素もあります。ここからさまざまな比較文化研究への糸口が見出されることでしょう。

『近代チェコ住宅社会史』

森下 嘉之:著
A5判 298ページ 上製
定価:7,200円+税
ISBN978-4-8329-6776-2 C3022
奥付の初版発行年月:2013年02月 / 発売日:2013年02月下旬
発行:北海道大学出版会

本書は、20世紀に誕生 した新国家チェコスロヴァキアの形成と社会変容を、住宅問題を通して考察する試みである。チェコに広がる大規模高層住宅は、20世紀前半に展開された様々な社会改革運動の末に形成され、共産主義体制が成立するまでに、市民層の社会改革家や都市官僚層、前衛的建築家、さらには共産党員らが、独自の住宅・社会改革を打ち出していった。
当時のチェコで展開された、独自の社会構想に着目する。

目次

第I部 郊外住宅地の実験 -帝政期から1920年代まで-
第1章 帝政期ボヘミアの都市・住宅・社会
第2章 チェコスロヴァキア第一共和国の住宅政策-産業振興と自立した市民層の育成
 第3章 1920年代の住宅改革運動—自立した個人を基盤とした国家へ—

第II部 「家族住宅」から「最小住宅」へ-1930年代の住宅改革から戦後へ-
第4章 経済恐慌期における住宅政策の変容—「家族住宅」から「最小住宅」へ—
第5章 新しい住宅改革構想—戦間期チェコの建築家集団の活動から
 第6章 ドイツ系住民の居住地域における住宅問題—地域社会とネイション—
 第7章 チェコスロバキア第三共和国(1938~1948)期における住宅政策の変容
関連書

福田宏『身体の国民化—多極化するチェコ社会と体操運動—』2006,北海道大大学出版会
北村昌史『ドイツ住宅改革運動—19世紀の都市化と市民社会』2007,京都大学学術出版会
裕成保志『〈住宅〉の歴史社会学—日常生活をめぐる啓蒙・動員・産業化—』2008,新曜社